氷河は瞬の仮病を心配し、幾度も様子を見に来てくれた。
服薬や通院を勧めてもくれた。
しかし、そんな状態が1週間も続くと、さすがの氷河も何かがおかしいことに気付いたらしい。

「瞬、本当はもう治っているんだろう?」
まるで反抗期の子供をあやすような口調でそう言いながら、氷河が瞬の肩を抱きしめてきたのは、瞬が仮病という病気に罹って8日目の午後のことだった。

氷河に触れられた途端、瞬の身体は、瞬自身が奇異に思うほど大きく震えた。
「僕に触らないで」
と告げる声も、滑稽なほど強張っている。

本当は、瞬は それを切望していた。
一人で眠る夜は、氷河に抱きしめられながら不安に駆られている時よりも、瞬を不安にした。
それ・・ではない何かを求めて不安になっていたはずなのに、我ながら浅ましいほど、氷河を自分の中に感じたいと思う。
あの苦しさと充実感のもたらす心地良さは、いっそ永遠にそうしていたいと願ってしまいそうになるほど、他のものでは決して代替できない“何か”だった。

だが、だからこそ――ここで氷河の誘惑に屈してしまったら、すべてが以前と同じ状態になり、自分はまた 不安と心地良さの間で行きつ戻りつする夜に苛まれ始めることになるだろう。
それは、ある意味では氷河を侮辱することでもある。

「ここから出てって」
全身にまとわりついてくる氷河の手と声と眼差しを振り払うようにして、瞬はなんとかその言葉を言うことができたのだった。






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