数10分後、氷河の代わりに瞬の部屋にやってきたのは紫龍だった。

「あー、俺はこういうことに頭を突っ込みたくはないと言ったんだが、他に適役もいなくて……」
きまり悪そうに前置きをする紫龍は、いかにも不承不承といったていである。
おそらく星矢あたりに仲介役を押しつけられて、彼はいやいやながら この場にやってきたに違いない。

だから、紫龍に視線で促されても申し訳なさが先に立って、瞬は何も言えなかったのである。
それでなくても瞬の悩みは、人様には言いづらいことだった。
「氷河に言えないことなら、俺が聞くぞ。俺はおまえの仲間だから――氷河じゃなく、友だちにしか言えないこともあるだろう」
「え……?」
紫龍にそう言われて、瞬は、俯かせていた顔をあげた。

氷河は おまえにとって“友だち”以外の何かだ――そう言われたことが嬉しくて、瞬は、つい、この“友だち”に自分の悩みを打ち明ける気になってしまったのである。
それは“友だち”に言うようなことではない、ということはわかっていたのだが。

瞬は遠慮勝ちに、極めて力無い声で訥々とつとつと、自らの苦悩を紫龍に語り始めた。
そして、いざ語り始めると、瞬は自分を止められなくなってしまったのだった。


――紫龍は、始めのうちは、瞬の切なる訴えを至極真面目に聞いていたのである。
が、徐々にその表情が引きつってくる。
とどめを刺すように、涙ながらの瞬に、
「氷河はきっと僕のカラダにしか興味ないんだ……!」
と訴えられた時には、紫龍は完全に白目を剥いていた。






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