「瞬はストライキを決行中なんだ。セックス・ストライキ中」 失明中でも日常生活にほとんど支障のない紫龍ではあったが、彼は、美感の見地から無理に黒目部分を取り戻して、彼の報告を待つ仲間たちのいるラウンジに戻った。 「……なぜだ」 認めたくはないが、現実がこうなのだから否定の仕様がない。 氷河はしぶしぶ反駁を諦めて、原因究明作業に取りかかった。 「おまえ、瞬が命の危険を覚えるくらい励みまくったんだろー」 という星矢の茶々を冷淡に無視して。 「まあ、俺が察するに、おまえは褒めポイントを間違えたんだな」 「褒めポイントを間違えた?」 同じ言葉を繰り返して反問してくる氷河に、紫龍が浅く頷く。 「おまえ、瞬のあっち方面のことばかり褒めまくったそうじゃないか。それはマズいだろう」 「それのどこがマズいんだ。なぜマズい。俺は瞬のために――」 氷河はもちろん、瞬のために瞬を褒めちぎったのである。 遠回りに自分のためでもあったが、それはやはり瞬のための賞賛だった。 ――問題は、氷河が男に生まれ、瞬もまた男だったこと。この一事に尽きていた。 その二人が恋し合い、氷河は、その恋の必然の経過として瞬との同衾を望んだ。 『頼むから俺を受け入れてくれ』と、それこそ氷河は、瞬の前に跪くも同然にして 瞬にそれを求めたのである。 瞬がその行為に及び腰なのは、わかっていた。 そして瞬がその関係を持つことに臆病になっていたのは、自分の身体が不自然な交合に傷付くかもしれないという怯えのせいではなく――氷河が自分との行為に幻滅する可能性を怖れてのことだった。 言葉や態度の端々から瞬のその不安が窺え、無理強いもならなかった氷河は、かなり長い間 瞬にお預けを食わされていた。 だから、ついに瞬を口説き落として、その裸身を抱きしめた時の感動は筆舌に尽くし難く、それ以上に瞬との交接の完遂の瞬間は感動的だった。 無論、瞬の身体に相当の無理を強いたことはわかっていた。 だというのに、瞬が自身の身体のことより、自分の身体を傷付けた男が 賞賛の言葉に不自由はしなかった。 実際に、瞬は素晴らしかったのだ。 指に吸いつくような瞬の肌は愛撫に敏感で、氷河が驚くほどの反応を見せた。 そこに、まるで氷河を煽るように か細いすすり泣きが加わる。 氷河の意に沿うようにと努めて 遠慮がちに示される所作の稚拙さが愛しく、それとは対照的に別の生き物のように氷河に絡みついてくる瞬の内奥は驚嘆に値した。 いったいなぜこんな素晴らしいものが自分の手に入ったのかと、氷河は信じられない幸運に見舞われた思いだった。 だから、その喜びを瞬に告げただけなのである。 おまえは本当に素晴らしい、と。 |