「瞬、おまえのいちばんの自慢は何だ」
氷河の掛けているソファの向かいの席に座るよう手で示しながら、紫龍が氷河に代わって尋ねる。

問われてしばらく考え込んでいた瞬は、ちらりと上目使いに氷河の顔を覗き込み、それから少し遠慮がちな声で答えた。
「……氷河が僕の側にいてくれること」
「へ?」
「僕のいちばんの自慢は氷河だよ」
「…………」

今度は氷河が白目を剥く番だった。
いくら何でも その発言には無理がある――と、氷河は120パーセント本気で思った。

「いや、俺はおまえが得意がるほど大した男では――」
一応、謙虚にそう言いかけた氷河は、
「氷河なんか、顔とアレしか取りえ ないもんなー」
と横から茶々を入れてきた星矢の頭は、しっかりと殴りつけた。

「そんなことないよ!」
謙虚な氷河と正直な星矢の言を、瞬が鋭く遮る。
星矢は、氷河に殴りつけられたことより、瞬のその剣幕に驚いて、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
一度深呼吸をしてから、改めて瞬に確認を入れる。

「ほんとに、おまえのいちばんの自慢って氷河なのか?」
「うん」
「氷河を褒められれば嬉しいのか」
「うん」
「しかし、俺が人に勝るところは、顔とアレしかないだろう」
「自分で自分がよくわかっているな」

星矢ばかりか当の氷河と紫龍にまで 自分の認識を否定された瞬は、その四面楚歌の状況でなお、自らの見解を是として主張し続けた。
「そんなことないってば! 氷河は優しいし、綺麗だし、情熱的で誠実でまっすぐで――だって氷河は、僕が見ている夢を馬鹿にしないでくれるんだから! 僕は、僕が見てる方向と同じところを氷河も見ててくれることが嬉しくて、生まれてきてよかったって思えて、だから僕は――」

だから瞬は好きになったのだ。
「おまえの夢はきっと叶うさ」と言ってくれた氷河を。

「瞬……」
顔とアレ以外に自信を持っていなかった男は、瞬の必死の訴えに猛烈に感動していた。

その横で星矢が、紫龍にだけ聞こえる程度の音量で低くぼやく。
「この氷河を、よくそこまで美化できるもんだな。恋ってこえ〜」
「まあ、わからないこともない。氷河がいい男であればあるだけ、そのいい男に惚れられている瞬の価値もあがるというもので――。何にせよ、あの二人が好き合ってることは確かなんだから――そこがいちばん大事なことだろう」

同じ夢を信じていられて、その上、身体の相性まで尋常でなく良いのである。
解決できない問題が、二人の間に存在するはずがなかった。






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