「氷河は氷河が好きだった人たちに、自分の気持ちを伝えたかったんだよね? 氷河は、氷河があの人たちを愛していたことを証明したかった。でも、そうできなかった。氷河は、その未練と後悔を、僕に対して“証明”することで埋め合わせをしようとしてたんだよ」
証明できないものを 愛だけが信じさせる――と断言した時と同じように確信に満ちて、瞬は告げた。
「生きて氷河の側にいて、弱っちいくせに、なかなか死にそうにない僕を使って」

「俺は本当におまえが――」
「氷河がほんとは僕を嫌ってるなんて言ってるわけじゃないよ。氷河は心配しなくてもいいんだ――って、愛されてたことを負い目に感じる必要なんかないんだ――って言いたいだけ」
瞬は氷河のために笑ってそう言ったが、心のどこかで、その事実を寂しく感じている自分に気付いてもいた。
その感情が、どんな心から生まれてきたものなのかは、瞬自身にもわからなかったのであるが。

「きっと、氷河の大切な人たちはみんな、氷河の気持ちをわかっていたと思うよ。氷河に証明してもらわなくても。ううん、あの人たちは、もしかしたら、氷河の気持ちなんか本当はどうでもよかったのかもしれない。彼等は彼等が氷河を愛していた――それだけで十分だったのかも。彼等は証明したんだよね、彼等が氷河を愛してることを。少なくとも、氷河はそう思った」

その通りだった。
氷河はそう思った。
だから、それが無念だったのだ。
『証明されるだけ』の自分の無力が。

「氷河はつらいよね、愛されるだけなんて。だから、僕を愛してる振りをしたかったんでしょう? 泣き虫の僕は、氷河が守ったり庇ったりして、愛してることを証明するのにちょうどいい相手だった」
「瞬――」
氷河は瞬に反駁しようとした。
瞬の推察を否定しようとした。
だが、氷河は、自分にはそうすることができないことに気付いたのである。
“愛”が命を懸けても証明できないものなら、愛の不在も愛の非不在もまた証明できない。
愛に関することは何もかもが――不確かなのだ。

「氷河が彼等を好きだったこと、大切に思ってたこと、愛してたことを、僕が信じてあげる。氷河は彼等を愛してた。僕がそれを信じてあげるから、氷河はもう苦しまなくていいんだよ。僕に証明なんかしなくていい。これからもずっと僕が――氷河と生きていく僕が信じて――知っててあげるから、氷河は心配しなくていいんだ」

証明できないものを信じる力を生むものが愛だけだというのなら、瞬が仲間を信じると告げる言葉の奥には、やはり愛と呼ぶべきものが存在するのだろうと、氷河は思った。
ここでも――こんなことになっても、自分は愛されるだけなのか――と。

氷河は、どうしようもないもどかしさを感じたのである。
今ほど瞬に“それ”を証明したいと思ったことはない。
だが、その方法がわからなくて――だから、氷河は瞬を抱きしめた。
「氷河、きっさまー!」
その場に同席していた瞬の兄が何やらわめいていたが、氷河は彼の声を綺麗に無視した――聞こえなかった。






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