『邪魔だ――』
瞬の身体を己れの意の通りに動かし操りながら、ハーデスは、瞬がその内に抱えているものたちに手こずっていた。
思っていた以上に、瞬の心の大部分を 彼の仲間と彼等に付随する諸々のことが占めていて、それらのものを完全に消し去ることが難しい。
瞬の姿で、復活した冥界の王の為すべきことを為しながら、ハーデスの苛立ちは増していった。

そして、やがてハーデスは、瞬の身体を支配し その心をねじ伏せようとしているうちに、瞬が冥界の王のしろとして選ばれた訳を理解するに至った。
すなわち、瞬が“清らか”であり続けることができた訳を。

我意、欲望、無関心――人を清らかなものでおかない雑多な要素。
瞬はそれらのものを受け入れようとしないのだと、ハーデスはこれまでずっと考えていたのだが、実際はそうではなかった。
瞬はそれらのものをごく自然に受け入れる。
そして、浄化してしまうのだ。
冥界の王の意思さえも、瞬の心は他の“汚れ”と同じように浄化――排斥ではなく――しようとし始めた。

ハーデスは、瞬の中で初めて、自分が汚れていることを知った。
絶対的な力を有する神が、諦観と、弱さと、その反動としての傲慢に満ちていることを、ハーデスは瞬の中で否応なく自覚させられた。

『瞬の中で』――。
ハーデスは己れが瞬を支配したつもりでいたのだが、実態はそうではなく――同じ場所に意思を置いた途端、瞬の心はハーデスの心を飲み込むべく強大な力を振るいだした。
瞬自身でさえ、支配されているのは自分の方だと認識しているはずなのに、事実はそうではなかった。

ハーデスは懸命に瞬の心に抗ったのである。
その葛藤を、瞬は全く逆――自分の方が必死に抵抗しているのだと思い込んでいるようだったが。






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