ハーデスはやがて、冥界の王をさえ浄化しようとし始めた瞬の心の作用に抗しきれず、その身体との同化を諦めた。
瞬の心に追い出されたのではない。
冥府に現われたアテナのせいでもない。
ハーデスは 自らの意思で危地から脱出したのである。
神である冥界の王をさえ“清らか”なものに変えて、我が身の糧にしようとする瞬から逃れるために。

瞬が頑なに清らかでいられ続けるのは、汚れを拒み 寄せ付けないからではなく、それらを受け入れ変えてしまう力を有しているからだった――らしい。
氷河は瞬を手に入れた満足によって 地上の平和などを願いだしたのではなく――彼は瞬に変えられてしまっていたのだ。

そして、だが、かろうじてハーデスはハーデスのまま――半分は瞬によって変えられてしまっていたかもしれないが――瞬の力から逃れることができた。






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