瞬を欲しいと、瞬の心を自分に向けさせたいと、ハーデスは強く思った。 これほどの圧倒的な力――を熱望せずにいられる神がいるものだろうか。 人間なら怖気づくのかもしれない。 否、その前に、瞬の持つ力の存在に気付きもしないだろう。 だが、ハーデスは、力を欲する神だった。 人間に勝る力を有することによって“神”と呼ばれる存在だった。 彼にとって“強い力”は、ただ恋い求めるものだったのだ。 愛しく魅力的な力。 だが、その力はいったい何から生ずるものなのか。 瞬の力を熱望しながらも、その力の本質を見極めずに欲することの危険を、ハーデスは今では理解していた。 瞬の力の源。それはいったい何なのか。 その正体がわからないせいで、本来の自分の身体に己れの心を収めても、ハーデスは落ち着かなかった。 ただ、瞬の力の向かうところが、神たる冥界の王が目指すところと真逆の場所だということだけは感じる。 だが、なぜそれは真逆なのだろう。 ハーデスは人間を憎んでいるわけではなかった。 むしろ、哀れみ愛している。 だからこそ彼等がこれ以上醜悪にならぬよう、彼等の生きる世界がこれ以上汚れに染まらぬよう、すべての消滅を企てた。 瞬が――瞬もまた――人間を愛しているのは確かな事実である。 彼はハーデスと同じように人間を愛している。 だというのになぜ、二人は望むものが真逆なのか――。 そこに至ることのできないはずのアテナの聖闘士たちが、至福の花園にやってくる。 まだ“答え”が出ていないというのに――彼等は、花々の間をうるさく飛び回る蜜蜂のように、神の熟考を妨げる。 ハーデスは苛立った。 答えに、まだ至っていないというのに――。 |