それから5日後。不吉な新月の夜。 レアンダーの絵本は星の子学園の図書室に戻り、氷河たちも数日前のアテナの怪しげな微笑を忘れかけていた頃。 「これが、この間 話したあの花よ」 そう言って沙織がラウンジのセンターテーブルに運んできたものは、塩化ビニール製のクリスタルボックスに収まった小さな鉢植えだった。 純白の蘭に似た花が、透き通った箱の中で可愛らしく首をかしげている。 「…………」 「…………」 氷河と瞬は沙織の笑顔を認めるなり、反射的に臨戦態勢に入った。 そうしてから初めて、ものを考え始める。 『持ってこれるはずがない』と、氷河はまず考えた。 『彼女は彼女の聖闘士たちを脅かして、尻込みする様を見て笑おうとしているだけなのだ』と。 仮にも地上の平和と秩序を守ることを となれば、ここでびくついてみせるのは敵の思う壺ではないか。 そう考えた氷河は、悪魔の挑戦を受けてたつイエスのように泰然と、鉢植えの収まった箱の蓋を開けてみたのである。 瞬が、氷河だけを危地に向かわせるわけにはいかないと、一緒に白い花に顔を近付ける。 「あ、いい香り」 「ミントの香りに似ているな」 どう見ても鑑賞用の花としか思えないその植物は、意外や実用性のある花に似た香りを漂わせていた。 沙織の目が突然きらりと鋭く光る。 二人がその花の香りを嗅いだことを認めるや、彼女は 氷河が手にしていた箱の蓋を奪い取り、素早くそれを元の場所に戻した。 「沙織さん、それはまさか……」 沙織が、嫌な予感を振り払うことができずにいる様子の紫龍に、毒のない――傍目にはそう見える――微笑を返してよこす。 「もちろん、脅しでも冗談でもなく本物よ」 星矢と紫龍は、彼等の女神の断言に絶句した。 |