10月に入り、瞬を感傷的にしていたあの季節がやってきた。
すべての試みは失敗し、氷河は人間というものを信じられなくなってしまっていた。
その10月も1秒1分1日と時間を進めていく。
そして、氷河がただ一人の人間も幸福にできないうちに、ハロウィンの夜は終わり、11月1日――約束の万聖節の日が、ついに来てしまったのである。

1年間の氷河の試みは、すべて徒労に終わった。
すべてが無駄だった。
この1年間に氷河が得たものは、人間というものへの軽蔑と失望だけ。
そしてまもなく氷河は、人間としての姿と命を失う。

人をひとり幸福にすることが こんなにも難しいことだったとは、1年前の氷河は考えてもいなかった。
瞬はいつも氷河をとても簡単に幸福にしてくれていたのだ――その微笑だけで。

自分たちと彼等とでは何が違うのか。
違うのは、幸福にしようとする人間か、幸福にしてもらう側の人間なのか――。
だが、それはもう、考えても詮無いことだった。
氷河は己れの死を覚悟し、最後に瞬の姿を一目見るために、この1年間近付かないようにしていた瞬の家のある町に戻っていったのである。






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