「君はこの施設で養われている子供か」
「え?」
突然、憂い顔のシュンに声をかけてきた者がいた。
シュンが顔をあげると、そこには見知らぬ金髪の青年がいて、シュンとシュンの膝の上にいる少女を見下ろしていた。

「ここで働いているにしては若すぎるようだが」
言いながらシュンの膝の上の少女の頭の上に置かれた青年の手は、到底肉体労働に従事したことのある人間の手ではなかった。
が、彼が身にまとっているものは貴族にしては地味な服で、そして、それが一層 彼の金髪を豪華に見せている。
「極秘に視察の前の視察にやってきたんだが――。子供たちは想像していたより元気そうだな。しかし、皆ひどく痩せている」

青年の呟きを聞いて、シュンは全身を緊張させた。
もしかしたら自分の国の王は世情に通じた聡明な人物なのかもしれないと、期待を抱く。
「あなたは国王様のご家来か何かですか? 国王様は僕の手紙を読んでくれたんでしょうか」
「ま、似たようなものだ。俺はヒョウガという。あの手紙を書いたのは君か」
シュンが頷くと、彼は、なぜかひどく嬉しそうに微笑した。
「で、君はここの者か? あの嘆願書の差出人の名は、確かシュンと記されていたが」

シュンの期待はますます大きなものになった。
あの嘆願書は、では、少なくとも、国王自身ではないにしろ、王宮に勤める誰かに顧みられることだけはしたのだ。
シュンは、ヒョウガに向かって大きく頷いた。
おそらくは飢えることも凍えることも知らない貴族の、苦労知らずの綺麗な手。
だが、それが子供たちへの救いの手になるかもしれないのだと思うと、シュンは生まれの不平等を妬む気にもならなかった。

「はい。僕、3年前に出されるまで、ここにいたんです。時々子供たちの面倒を見にきています」
「3年前? 今いくつだ」
「15になりました」
「12で追い出されたのか。ほんの子供じゃないか」
「今の院長は、十分に一人で生きていける歳だと、僕に言いました。……もっとも、書類上では僕はまだこの施設にいることになってるみたいだけど。子供の数で助成金の額が決まりますから――」

シュンの言葉を聞いて、ヒョウガが渋い顔になる。
シュンはほとんどすがるような気持ちでヒョウガに訴えた。
「院長がにわかに子供たちの服を新調して、視察当日の食事のメニューもいつもより良いものにして、陛下の目をごまかそうとしているんです。ごまかされないでくださいと、その機会があったら陛下に伝えてください。お願いします」

「いない子供の分の助成金を水増し請求するだけならまだしも、いる子供の世話もろくにせずに、ピンはねしているというわけか。実にけしからん」
憤懣やる方ないと言わんばかりのヒョウガの様子を見て、シュンは安堵の息をついた。
これで、国王が院長の姦計に陥ることだけは避けられるに違いない。






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