シュンはほとんど恐怖に近い感情に突き動かされて、僅かに身を引いた。
そんなものを受け取れるはずがない。
「施しはいらないです。僕は自分で働いて、労働の代償として与えられるものしかいらない」
「ものをただで貰ったら、人は喜ぶのではないか、普通」
「それは、親しい人に心尽くしのささやかな贈り物を贈られた時の話でしょう。これは違う……いりません」

「――若いのに頑固な」
頑なに“褒美”を受け取ろうとしないシュンを見て、ヒョウガは微かに眉をひそめた。
シュンの膝の上にいた女の子が、ヒョウガのその呟きを聞き咎めて、むっとした顔になる。

「シュンちゃんは優しいよ! お母ちゃんみたいに」
それは声の大きさの制御ができない子供特有の、ひどく甲高い声だった。
その声を聞きつけた他の子供たちが、わらわらとシュンとヒョウガの周囲に集まってくる。

「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「この人がシュンちゃんをガンコだって」
ガンコの意味はわかっていないらしいが、それが良い意味を持つ言葉ではないことだけは感じているらしく、少女はひどく憤慨した様子で仲間たちに訴えた。
集まってきた子供たちが一斉にヒョウガを睨む。

「シュンはガンコなんかじゃないぞ。シュンは優しいぞ」
「お母ちゃんがそうするみたいに、シュンは俺たちのこと見ててくれる。俺たちのことを気にかけてくれるのは、俺たちの他にはシュンだけだ! 優しいのはシュンだけだ……!」
“優しくない他人”に噛みついてくる子供たちに、ヒョウガは少々大袈裟にたじろいでみせた。
そして、子供たちに尋ねる。

お母・・ちゃん・・・みたいにシュンは優しいのか」
ヒョウガが尋ねたことに、子供たちが一斉に頷く。
ヒョウガはそんな子供たちに微笑し、重ねて尋ねた。
「シュンは、俺にも優しくしてくれるだろうか」
「もちろんだよ。シュンはみんなに優しいんだ」
お母・・ちゃん・・・みたいに?」
「そうだよ!」

子供たちに慕われるのは嬉しいが、シュンは歴とした男子である。
ヒョウガの微笑が、シュンには少々気まずかった。
それ以上に、自分のようなものにしか母親の面影を求められない子供たちのまっすぐな眼差しが、シュンには切なく感じられてならなかった。

「そうか……おまえたちにはお母ちゃんがいるのか……」
ヒョウガが、決してからかうようにではなく――むしろ、非常に真剣な表情で呟く。
「可愛いお母ちゃんで羨ましい……」
指輪を自分の指に戻しかけた彼は、思い直したようにそれを上着のポケットに突っ込むと、改めて、その場にいる子供たちと変わらないほど強い視線でシュンを見詰めた。






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