III






「ザチシエの総督を更迭したとか。いいんですか。代々王室に仕えてきた実力者で、私設の軍を養っているとも聞いています」
「軍と言っても、ならず者の集まりだ。そのならず者たちを使って、奴は領民からの搾取を重ね、領民の命も多く奪っていた。許されることではない」
「でも、厳しい処罰は彼の恨みを買います」
「俺は正しいことをした。事情を調べ、客観的な証拠を集め、それが捏造でないことも確認した。この処断は正しい」

ヒョウガの判断は正しい。
シュンもそれはわかっていた。
その正しいことを、代々の王ができずにいたことも。

ヒョウガは実際、シュンがこの王宮にやってくるまで、彼の時間のほとんどすべてを国務のために費やしていたらしい。
義務を権利と思うほどに国政に熱心で、シュンが己れの利を図る徒の類ではないことを見極めたせいもあるのだろうが、寝室で政治向きの話をすることも多かった。
シュンはさほど政治につまびらかだったわけではないが、王の身を守ることが国と国の民を守ることなのだと割り切って、自身の意見を口にした。

「人の心は、理屈や正義だけではできていないんです。自分が悪いとわかっていても、ヒョウガの裁断を恨む人はいます」
「では、あの腐った者共の悪事を見過ごすべきだったというのか!」
「僕はヒョウガが心配なんです。ヒョウガが処断するのは強大な力を持った者たちばかりで、彼等はヒョウガを逆恨みしてクーデターを計画しないとも限りません。もっと穏健に焦らずに改革を進めた方がいいのではないかと――」

ヒョウガは正論には耳を傾けてくれたが、ヒョウガの身を案じるシュンの言葉は あまり真面目に取り合ってくれなかった。
そういう話になるとすぐ煩わしそうな顔になって、シュンを愛撫で黙らせようとする。
「穏健だの漸進だの、国民を苦しめる悪党のために、なぜそんな面倒なことをしなければならないんだ。……が、シュンに心配されるのは嬉しい」

本当に嬉しそうに笑いながら そう言って、ヒョウガはシュンを抱きしめ、先ほどの交合の熱の残るシュンの身体に唇を這わせてきた。
シュンの指が、ヒョウガの髪に絡む。
「あ……っ」
「おまえの優しい小言をやめさせるには、これがいちばんだな。気持ちいいだろう? 俺はシュンの喜ぶ顔がもっともっと見たい。もっともっと喜んでくれ」
ヒョウガの愛撫に慣らされたシュンの身体は、ただ身体の線をなぞられるだけでも身悶えするほどになっていた。
まして、身体の中でいたずらを始められると、“小言”も言えなくなる。

「あっ……ん……ああ……っ!」
その感覚を拒むために脚を閉じようとするほどに、腰を浮かし、ヒョウガのより深い侵入を求める自分を浅ましいと思う。
だが、ヒョウガへの抵抗を、シュンの身体が許さないのだ。
そんな自分自身に絶望して、シュンは身体を開いた。
ねだるように開いた身体をヒョウガに押しつける。
そして欲しいものが身体の中に入ってくると、シュンは もはやまともな思考を形作ることができなくなってしまうのだった。


好かれてはいるのだろう。
それはわかっていた。
だが、ヒョウガがシュンの身体を求めるのは、子供が母親のぬくもりを求めることと大差ないのではないかとも思う。
少なくともそれは恋ではない。
恋なら、相手の心を無視することなどできるはずがない。

ヒョウガはただシュンに求めるものがあり、それをシュンから得る。
シュンにも欲しいものがあるなどということは考えず、考えたとしても、それが自分の求めるものと違うものであるはずがないと思い込んでいる。
シュンはそれが悲しかった。
それを悲しいと感じる心が恋なのではないかという不安を覚えるようになってしまった今ではなおさら、ヒョウガの熱心な愛撫はシュンを苦しめるだけのものだった。






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