シュンが懸念していたことが現実になったのは、シュンが国王の公認の愛妾になって3ヶ月が過ぎた頃だった。
首謀者は、ヒョウガが更迭したザチシエの元提督の一族である陸軍の将軍で、軍事クーデターを企てた彼は、まずヒョウガの暗殺を謀り、王宮での月例の昼食会の席上で警備に当たる数名の部下に 暴君誅殺の任を授けていた。

幸い暗殺は未遂に終わり、ヒョウガはかすり傷ひとつ負うことはなかった。
なにしろ暗殺計画の当日までに、首謀者である将軍の家の下男や小間使い、武器の調達を依頼された商人、クーデターへの加担を要請された将校や下士官たちから、10件を越える密告が王の許に届いていたのだから、クーデター計画が不発に終わったのは当然のことだった。


「どうだ。正しいことをしていれば、いくらでも味方が現れる」
事の顛末を得意げに語るヒョウガを、シュンはたしなめる気にもならなかった。
ヒョウガの言う通りなのかもしれないと思う心と、こんな企てがこれからも繰り返し起こるのではないかという不安と、何よりヒョウガが無事でいたことへの安堵が、シュンから言葉を奪ってしまったのである。

「心配させて……」
シュンは、涙をこらえて そう言うだけで精一杯だった。
だが、その小さな呟きの方が、どんな雄弁よりもヒョウガには こたえたらしい。
「悪かった……」
いつになく殊勝な様子でそう言って、ヒョウガはシュンを抱きしめた。

ヒョウガの愛撫の下で、そしてシュンははっきり自覚したのである。
自分はヒョウガが嫌いなわけではなく、もう恨みの心もない。
むしろ彼と彼の命を大切に思っている――愛している。
ただ、彼に愛されていないことが悲しいだけなのだということを。






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