「なぜそんな頓珍漢なことを考えているのです。あなたはもう少し聡明な方だと思っていたのに」

ヒョウガに『愛している』と言うことはできない。
シュンがその事実を打ち明けられるのは、今ではすっかりシュンの相談役になってしまった、あの侍従だけだった。
国王への愛の告白を聞かされた彼が、珍しく感情を顔と声に出して、まじまじとシュンを見詰めてくる。
シュンは、彼の奇妙に歪められた表情の意味が理解できなかった。
彼が、そんなシュンの前で嘆息する。

「あまり愉快ではないことを教えてさしあげましょうか」
「え?」
「先日のクーデター計画には、王を暗殺したあとの筋書きがちゃんとできていたんです。他に血縁も跡継ぎもない王の跡を誰が継ぐか、罪人として囚われている者たちを解放し、その見返りとして何を要求するか、王の愛妾のあなたを誰が貰い受けるかまで」
「ぼ……僕……?」
シュンは、ヒョウガの愛人でいなければ何の力も持たない、ただの貧しい一平民である。
なぜそんなものがクーデター計画に名を出されるのか、シュンには得心がいかなかった。

「国王が溺愛しているあなたを手に入れることで勝利を楽しむつもりだったのか、これまでの鬱憤を晴らすつもりだったのか、それとも本当にあなたを――いや、まあ、それで、首謀者の将軍と彼に加担した二人の公爵があなたを手に入れたいという意思を表明しておりまして、暗殺成功後の三者の協議であなたを誰が引き取るかを決めること、ただし、他の二名が望んだ時にはあなたの貸し借りができるようにと、そんなことまで事細かに念書が交わされていたんです」

「…………」
自分の預かり知らぬところで、そんな気味の悪い密約が交わされていたことに不快を感じる以前に、いったいクーデターの首謀者たちは何を考えていたのかと、シュンはすっかり呆れてしまったのである。

シュンがもし王位転覆を謀るなら、まず軍部の完全掌握と、ヒョウガに重用されていた者たちの身柄拘束を最優先させ、他のことはすべて捨て置く。
陰謀の仲間も無闇に増やしたりはしない。
ヒョウガなら、なおさら迅速果断に事を成し遂げるに違いなかった。
そんな色惚けたクーデターが、あのヒョウガ相手に成功するはずがないではないか。

呆れているシュンに侍従が苦笑を見せ、それからすぐに彼は真顔に戻った。
「陛下はその念書をお読みになって大変ご立腹になり、かねてからの計画を急ぐことを決意されました」
「かねてからの計画?」
「はい。もう間もなく、陛下から、こんな穴だらけのクーデター計画よりもっとずっと驚くべき計画の発表がありますよ」

彼は、秘密のかけらを第三者に示すことを楽しんでいるのか、静かに意味ありげな笑みをシュンに投げかけてきた。






【next】