そんなわざとらしい見せつけ行為が2度3度と繰り返されれば、いずれはっきりと決着をつけなければ 事態が――この場合は絵梨衣の心中が――おさまらなくなるのは自明の理だったろう。
そうして、そういう時、女というものは、なぜか浮気をした男の方ではなく、その相手に対して敵愾心を抱くようにできているのだった。

「瞬さん、ちょっと来ていただける?」
瞬が絵梨衣に声をかけられたのは、瞬が氷河と“振り”をしながら星の子学園を訪れるようになって4度目の訪問時。
彼女はにっこりと瞬に微笑みかけると、美穂と共に、怖気おじける瞬を星の子学園の図書室の中に連れ込んだ。
室内に子供たちの姿がないことを確認すると、途端に、それまで優しげだった絵梨衣の顔つきが、邪神でも降臨したかのように険しくなる。
そして彼女は、正義はおのが身の上にあることを確信した口調で、瞬を面詰してきた。

「どういうことなのか説明してほしいわ。あなた、そんな顔してても男の子なんでしょ。人の恋人を盗るつもり?」
絵梨衣に同行してきた美穂も、彼女の同僚に同調し瞬を責め始める。
「そうよそうよ、ひどいわ! そーゆーの、流行りなのかもしれないけど、絵梨衣ちゃんがかわいそう……!」

「ご……ごめんなさい」
瞬としては、怒れる二人の少女に ひたすら謝罪するしかなかったのである。
彼女等の怒りは当然のことで、氷河の計画に加担している身の瞬としては、自分に非があることを認めざるを得なかった。
「あの、でも、氷河のこと誤解しないでください。氷河は絵梨衣さんのことがとっても好きなんです」

「当然よ」
絵梨衣が瞬を鼻であしらう。
「わかってるなら、人のオトコに手を出さないでちょうだいね」
瞬にきっちりと釘を刺してくる絵梨衣は、瞬の知らない絵梨衣だった。
少なくとも絵梨衣は、恋人を他人に奪われたことに打ちひしがれるタイプの少女ではなかったらしい。
この点で、氷河は確かに瞬よりも絵梨衣を知って・・・いた・・と言える。

「はい……」
項垂れるように絵梨衣に頷きながら、瞬は思ったのである。
こんな企みはやはりやめなければならない。
絵梨衣は氷河が好きになった少女である。
本来は心優しい少女であるに違いない。
その絵梨衣をこんなふうに変えてしまうような企みは、氷河のためにも絵梨衣のためにも もうやめなければならなかった。






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