時刻はそろそろ夕方といえる頃になっていた。 グラウンドに面した窓からオレンジ色の西日が、いつもなら子供たちであふれている室内と氷河と瞬とを照らしだす。 秋の夕暮れは妙に静かで、学園の敷地内で遊んでいるはずの子供たちの歓声も どこか遠い場所にあるように感じられた。 絵梨衣がいなくなり、その場にふたりきりになっても、氷河と瞬はかなり長い間 互いに黙りこくっていたのである。 その沈黙に耐えかねたように、やがて氷河がテーブルに両手をつき、瞬に頭を下げてきた。 「すまん。本当にすまなかった。人間として最低なことをしたのはわかってる。弁明も釈明もできない。だが――」 氷河は一応、自分のしたことがどういうことだったのかは理解しているらしい。 そして、彼は彼で彼なりに、彼の苦悩を抱えていたものらしかった。 「だが、だからといって、問答無用でおまえを押し倒すわけにはいかないだろう。俺はおまえが好きなんだぞ。そんなことができるわけがない!」 悔しそうに そう言ってから、彼は、強張らせていた両肩から力を抜いた。 「……が、忍耐が限界に来ていたのも事実で――だから、こんな姑息なことを企んだ。すまん」 「僕は……」 瞬は氷河を責めようと思ったのである。 氷河の残酷な企みのせいで、自分がどれほどつらい思いを味わい、そして傷付いたのかを、彼に訴えようと思った。 しかも、氷河は仲間の気持ちを知っていて、その上でこんなことを企んだという。 その企みに踊らされている間、自分がどんなに苦しかったか、どんなに悲しかったか――思い出すだけで瞬の目の奥は熱くなってきた。 彼に傷付けられた者の当然の権利として 氷河に恨み言を言おうとした瞬は、だが、目の前で頭を下げたままの氷河の姿を見ているうちに、何も言えなくなってしまったのだった。 |