そして、地球は回っている






「瞬、今晩、一緒に寝ないか」

その場には、瞬のみならず星矢も紫龍もいた。
わずか1ヶ月前には、あれほど秋の夜を賑わせていた虫たちは既に長い冬の眠りにつき、初冬の夜は青銅聖闘士たちの前に静かに横たわっている。
無論、城戸邸内は適度な気温と湿度が保たれていて、青銅聖闘士たちは、その中にいる限り 暑いと感じることも寒いと感じることもなかった。
寒暖を意識しない彼等も、驚きは覚える。
氷河のその言葉に星矢は目を剥き、『えらく単刀直入にきたなー』と、瞬ではなく紫龍に目配せをした。

「い……一緒にね……寝ないかって、ど……どーゆーこと」
ラウンジの3人掛けソファの端に座ってお茶を飲んでいた瞬が、律儀に一文節ごとにどもって氷河に問い返す。
瞬の前に立っていた氷河は、わずかに上体を前方に傾け、その指先に瞬の髪を一房 絡めた。

「最近、寒くなってきただろう」
「氷河、そんなの平気じゃん」
星矢の突っ込みを、どうやら氷河の耳はただの雑音としか認識しなかったらしい。
氷河はそれをあっさり無視して、彼の言葉を続けた。
「おまえを抱いて寝て、朝起きた時に隣りにおまえがいたら、どんなにいいだろうと思ったんだ」

瞬の心臓がどきどきと大きく波打ち始め、そこから送り出された血液が頬に集まってくる。
瞬はその事実を自覚する前に――つまり、紅潮した頬を隠すことを意識する前に――顔を伏せてしまっていた。
「ぼ……僕は構わないけど」
「いいんだな。じゃあ、今夜、おまえの――いや、俺の部屋に来てくれ」
「う……うん……」

氷河の態度や口調には大袈裟な喜色も感情の変化も感じられない。
瞬は、そのせいで、どうあっても自分の動揺を隠さなければならないという義務感にかられ、氷河に表情を見てとられないよう俯いたままで頷くということをしたのである。






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