その夜も、氷河は瞬に何もしなかった。
抱きしめ合い、口付けを交わし、その唇で互いに『おやすみ』と告げ、寄り添い眠る。
そうして迎える朝の、心地良さと幸福感。
それが1週間も続くと、やがて瞬は、破裂しそうなほど心臓を高鳴らせずに氷河の横に寄り添うことができるようになった。
氷河の体温は心地良く、彼の胸に頬を寄せてその鼓動を聞いていると、それは子守唄のように安らげる。

氷河の求めに応じただけの自分が これほど幸福な気持ちになれるのだから、望んだことが叶えられた氷河は、それ以上の満足を得ているに違いない。
少なくとも、不満は覚えていないはずである。
そう思えることは、瞬にはひどく喜ばしく、安心を誘うことでもあった。


「おい、瞬」
瞬はこの状況に至極満足していたのだが、星矢はそうはいかなかった。
以前と何ひとつ変わったことは起きていないのに、以前より幸せそうにしている瞬が、彼はむしろ不快で、そして不審でもあった。
星矢の不審が全く理解できないわけではなかったのだが、瞬は、仲間の不機嫌な声を、あえて微笑で受けとめたのである。

「考えてみたら、僕は氷河が好きで、氷河がそうしたいのなら、いつかはそうなることを覚悟しなきゃ……って思ってもいたけど、そういうことしなくていいのなら、僕もその方がいいもの。朝起きた時に隣りに氷河がいるのって、すごく素敵だよ。こういうの理想的」
「おまえの理想ってのは、氷河とお手々つないで寝ることなのかよ!」
「氷河が幸せでいてくれることだよ。それで、僕も幸せな気分になれる」

「……氷河がそれでよくて、瞬もそれがいいなら、俺が口を出すことじゃないかもしれないけどさぁ……」
それでも何か釈然としない。
星矢は決して、絶対に、男同士がなまめかしく絡み合うことを望んでいるわけではなかったし、そういう嗜好を奨励するつもりもなかった。
それでも――そんな彼にも――この事態はどうにも釈然としないものだったのである。






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