自室の冷たいベッドの中で まんじりともせず、なんとか一晩を耐え抜いた瞬は、目覚めるとすぐ朝食もとらずに城戸邸を出た。
今は氷河と顔を合わせたくなかった。
そして、星矢に合わせる顔もなかったから。

氷河と二人で心地良い晩秋を過ごしているうちに、城戸邸の外はすっかり冬になっていた。
気温の低下のことではなく――もちろん、それもあったが――、ありとあらゆる場所がクリスマス仕様なのだ。
賑やかな街で、瞬は行く当てもない。
その上、今更――本当に今更なことだったが、こんなことになって瞬は初めて、自分が時間の過ごし方がひどく下手なことに気付いたのである。
飲食店に一人で入ったことがないせいで、ティーラウンジの類に一人で入る勇気が持てない。
目的のないウィンドウショッピングという行為の実践も、瞬には15分が限界。
こういう時のために映画館というものがあるのだと思い至って向かった先では、苦手なホラー映画と今は絶対に観たくない恋愛映画ばかりが上映されていて、瞬はその場から立ち去るしかなかった。

短いはずの冬の一日が、とてつもなく長い。
氷河と一緒にいる時には、特に何かをしていなくても、ただ側にいるだけで時間は矢のように速く過ぎていったのに、一人でいると、1分が1時間にも思えるほどに、それは遅々として進まず、いつまでも瞬の上にとどまり、そこから立ち去ってくれなかった。
なんとか夕方までは図書館で時間をつぶし、受験生らしき中高生が席を求めて館内にあふれ始めた頃に、それ以上そこに居座ることもできなくなって、瞬は図書館を出た。

玄関を出た瞬を、冬の夕暮れが出迎えてくれる。
100年にも思える時間を過ごしたというのに、まだオレンジ色の光を放ちつつ西の空に浮かんでいる太陽を、瞬は恨めしく思った。

行く先も告げずに姿を消した仲間を、氷河たちは心配しているかもしれない。
だが、戻れない――。
どこかでもう少し、せめて日が暮れるまで、瞬は一人でいたかった。
行き先を決めかねて周囲を見回した瞬の目に、図書館に隣接する公園のありかを示すプレートが飛び込んでくる。
瞬がそのプレートにある矢印に従って遊歩道を歩いていくと、夕陽の色に染まった小さな公園が、ぽっかりと瞬の前に現れた。
敷地はさほど広いものではなかったが、緑地帯に沿ってベンチがいくつか、公園の中央には すべり台等の遊具や鉄棒・コンビネーションジム等の運道用の設備が整っている。

鉄棒に取りついている子供が一人いた。
その子の邪魔にならないように静かに、瞬は公園内のベンチに腰をおろし、細く長い溜め息を一つ ついた。






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