「僕、あなたは、こんなところで裁判ごっこしてるより、好きな人を見つけるためにこの法廷を出た方がいいと思います」
瞬の中には もはや、迷いも ルネの主張する罪に対する反発心も存在しなかった。
あるのはただ、冥界の掟に縛られて心の柔軟さを失い、我と我が身を自ら不幸の中に追いやっている男への同情心だけだった。

「わ……私は……」
端正な(はずの)ルネの顔は、相変わらずぴくぴくと引きつっている。

「このままじゃ、あなたは何のために生まれてきたのか……。生きるために動植物の命を奪う罪を犯し、神でもないのに人を裁く傲慢の罪を犯し、その上、何の喜びもない人生を、あなたは一生生きていくつもりなんですか」

「……私はこの神聖な仕事に誇りを――」
そう言うルネの歯の根は合っておらず、それらはがちがちと、誰の耳にも快く感じられない音を立てている。

「もし人が人を愛することが罪なのだとしても、その罪なしに人は生きていけない。自分で自分を縛り、自ら不幸になることを選ぶことなんてない。少し心を自由にすれば、生きていることは喜びの連続ですよ」

実際に幸福な人生を生きている人間に、自らを不幸に縛りつけている人間が勝てるはずがない。
ルネは、ミノムシ状態の氷河と瞬の足元に がくりと膝をついた。
彼が鞭を手放すと、それは音もなく氷河の身体から離れ、彼の主人の許へと戻ってきた。






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