氷河は実は たった今、明日、瞬が子供の頃に兄と身を寄せていた教会の大掃除の手伝いに出掛けるつもりであることを、瞬に告げられたばかりだった。 それだけならまだしも、イブにはその教会のクリスマスミサに行くつもりだとまで。 なんでも子供の頃に世話になっていた神父に街で偶然出会い、懐かしさで昔暮らしていた教会に足を向けた瞬は、彼と思い出話をしているうちに、ついそんな約束を交わしてしまったのだという。 壮大な前置きはほぼ無意味。 要するに、氷河は、日本中の恋人たちがいちゃつきまくる夜に、自分だけが一人放っておかれることが、とにかく気に入らなかったのである。 そして、それを瞬が一人で決めてしまったということが。 「おまえの立腹はさておくとして、瞬がイエスより偉大だなどという見解は、いくら何でも不遜に過ぎるだろう。仏罰がくだるぞ」 氷河の激昂の理由が明らかになったところで、紫龍はあっさりと氷河の大演説の主旨を無視した。 そんなことは氷河と瞬が二人で解決すればいいことで、余人には関わりのないことである。 というより、紫龍はそんなことに自ら頭を突っ込んでいくような馬鹿な真似をしたくなかったのだ。 ちなみに、時折中国人と誤認されることはあるが、紫龍は正真正銘の日本人である。 当然、無宗教にして多宗教。 ギリシャの神とヤハヴェの神(の子)が相争う場に 仏までを引っ張り出してのけたのは、ひとえに紫龍が日本人であるからだったろう。 大部分の日本人の宗教観は、所詮この程度のものである。 氷河は、しかし、仏のお出ましにも動じることはなかった。 ラウンジの3人掛けのソファの端に座っていた瞬に向かって―― 一応、その場には瞬もいたのである――彼は大音声を張りあげた。 「瞬っ、考え直せ! でないと絶交だ!」 「氷河……」 それまで氷河の剣幕の凄まじさに口を挟めずにいた瞬が、小学生の口喧嘩レベルなことを言う氷河を見て、脱力したように深い溜め息をつく。 「自分で自分の首絞めるようなこと言ってらぁ」 星矢の茶々に小さく苦笑して、瞬は、氷河の気持ちを逆撫でしないように、努めて穏やかな口調で氷河に告げた。 「でも、明日の大掃除の手伝いのことも、イブのミサに出ることも、もう神父様と約束しちゃったんだ」 瞬の返答に、氷河がムッとなる。 おそらく彼は、自分がこれだけ激昂してみせたのだから、我を通そうとする仲間に、瞬はいつものように折れてくれるものと思っていたに違いない。 壮大な前振りを展開した直後だけに、今更 引っ込みもつかなかったのだろう。 「なら、絶交だ!」 小学生の喧嘩のお決まりの捨てゼリフを、氷河は勢いよく瞬に言い放ってしまったのだった。 |