夕方と言える時刻になった頃、氷河はやっと瞬を解放し、瞬に解放され、名を呼んでも起き上がれないほどになってしまった瞬をひとりベッドに捨て置いて、自室を出たのである。
ラウンジでは、星矢が、夕食と年越しそばの前の軽い間食とおぼしきフライドポテトを もくもくと食していた。

「太るぞ。太った聖闘士なぞ目もあてられない」
いくら星矢でも、バトルのない時に これは食べすぎだろう――と氷河は思ったのである。
今はとにかく、瞬のことを考えたくない。
瞬に関することでなかったら、考えることと話すことは何でもよかった。

「瞬いじめは終わったのか?」
星矢は、だが、氷河の神経を逆撫ですることを目的にしているように、話題を瞬のことにもっていく。
どうやら彼は、仲間のしていることが不愉快で、その不愉快を食べ物で晴らそうとしていたものらしかった。
「考えたって、詮索したって、意味ないことだろ。瞬を責めたって何にもならない。おまえは、今の瞬が おまえを好きでいることも疑うのかよ」

星矢はあくまでも瞬の味方らしい。
当然のことではあった。
瞬は何も悪いことはしていないのだ。
ただ、氷河の望む通りの瞬でなかっただけで。

「そんなに嫌なら、瞬をリセットするんじゃなくて、おまえたちの仲をリセットすればいい」
何も答えない――答えられない――氷河の態度に、星矢の苛立ちは募るばかりのようだった。
彼の大切な仲間が、やはり生死を懸けた闘いを共にしてきた仲間を傷付けているのだから、彼の苛立ちも怒りも、至極自然なものだったろう。
しかし氷河は、自分で自分の心を制御することが どうしてもできずにいた。
彼は嫉妬したくて嫉妬しているわけではなく、瞬を責めたくて責めているわけでもなかったのだ。

あくまでも無言を通そうとする氷河に、星矢は最後には、言葉を吐き出すように噛みついてきた。
「嫌なんだろ。今の瞬が。おまえの思ってた通りの瞬じゃなかったから。だったら、綺麗に別れて、何もかも なかったことにしちまえばいいんだ!」
「それができたら……!」

それができたら――そうすることができたなら、とうの昔にそうしてしまっていた。
そうすることさえできれば、自分はもう瞬を傷付けずに済むのだから。
そうすることができないから、氷河はこれほどに無様な姿を仲間の前にさらしているのである。

氷河を睨むように見詰める星矢の眼差しは 彼らしくまっすぐに澄んでいて、言葉に詰まった氷河は星矢の前から逃げ出すことしかできなかった。






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