まもなく今年が終わる。
城戸邸の青銅聖闘士たちは、大晦日には、新しい年を皆で迎え、新年の挨拶をしてから自室に戻るのが毎年の慣例になっていた。

瞬は、今年も残すところ あと2時間弱となった頃に、氷河のベッドで目を覚ました。
それから1時間ほど、その場所で横になったまま身体を休めていたのだが、今年が終わりかけていることに気付いて、ゆっくりと身体を起こした。
氷河の愛撫は乱暴で、瞬はいまだに身体の中心に重い鉛の塊りが残っているような鈍い痛みを覚えたのだが、気分自体はさほど悪くはなかった。

重い身体が、その瞼までを重くして目覚めることができずにいた時、氷河が側にいてくれたような気がする。
彼はいつになく優しく、なぜか瞬に謝罪の言葉を告げ、そして、『早く目覚めてくれ』と瞬に囁いた。
その声音があまりにやわらかく、そして心地良く瞬の身体を撫でたせいで、瞬はまた深い眠りの中に引き込まれてしまったのである。
何にせよ、目覚めた瞬の気分は決して悪いものではなかった。

身仕舞いを整えて、仲間たちの集合場所であるラウンジに向かう途中で、瞬はダイニングルームから出てきた星矢と紫龍に出会った。
どうやら、年越しそばを食べたあとらしい。
瞬は、今日の午後 星矢の伝言を厨房の方に伝え損ねていたことを思い出して、少し慌ててしまったのである。

「星矢、夕食とお蕎麦、ちゃんと食べれた? ごめんね、僕が伝えるつもりだったのに――」
気分は決して悪くはないのだが、身体は重い。
氷河の激しい愛撫の痛みもまだ少し残っていた。
あまり力強いとは言い難い笑みを浮かべて、瞬は仲間の側に歩み寄ろうとしたのである。
が、そうしようとした瞬の意思についてこれなかった身体のせいで、瞬はその場に前のめりに倒れそうになった。
幸い、星矢と紫龍が素早くその身体を支えてくれたので、瞬は転ばずに済んだのであるが。

「あ……ありがと――」
礼を言おうとした瞬の上に、星矢の怒声が降ってくる。
「馬鹿、蕎麦のことなんてどーでもいいんだよ! 氷河の奴、またおまえに無理させたんだろ!」
「あ……」

星矢の言う通りではあったが、なぜ星矢はそのことを これほど苛立たしげな声で言うのかと、瞬は怪訝に思ったのである。
『なぜ』と問うのもはばかられるほど怒りの色を露わにしている星矢の顔を、瞬は心許なげに見あげた。
途端に、星矢の目の中の怒りの色が消える。
それから彼は、不幸な友人を慰めるように、どこか遣り切れなさを含んだ声で、瞬に言った。
「おまえ、氷河とはさ、もうやめろ。氷河はもうだめだ。嫉妬にとち狂って――氷河は、おまえより自分の自尊心の方が大事なんだ」
「ど……どういうこと」

瞬がその言葉を訝り 問い返すと、星矢は、何も気付いていない瞬に――気付かれていることに気付いていない瞬に――哀れむような視線を向けてきた。






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