「ただいまー! 氷河、星矢、紫龍、おみやげ買ってきたよ! ティムタムのチョコレートとコアラの縫いぐるみ!」 真夏の大陸で1ヶ月を遊び暮らしても日焼けひとつしないのが、瞬の特異な体質である。 それでも、バカンスを満喫しまくった人間特有の明るい表情で、瞬は城戸邸に帰ってきた。 「瞬……!」 帰国した瞬を最初に出迎えたのは 氷河その人で、彼は1ヶ月振りに出会った瞬の名を呼び、強く抱きしめ、それ以上それ以外の何もしようとはしなかった。 ひと月振りに出会った恋人をただ抱きしめるだけの氷河に、瞬は、『1ヶ月もよく我慢できたね』と言って頭を撫でてやりたい気持ちになったのである。 「ただいま、氷河。氷河には、みんなへのおみやげとは別に アボリジニアートのブーメラン買ってきたよ」 再会の感動が極まって言葉もないらしい氷河の青い瞳を見上げ、瞬は彼に微笑んでみせた。 長い禁欲生活のせいか、久し振りに見る氷河の瞳は以前にも増して澄んでいるように、瞬には思われた。 そんな瞬に、星矢がこっそり耳打ちをしてくる。 「氷河の奴、かなり たまってるからな。今夜は覚悟しとけよ」 「え……」 では、氷河は、1ヶ月の禁欲生活に耐え抜いてみせたにも関わらず、『痛みを感じるまで愛することが真実の愛の証である』という馬鹿げた考えを改めることまではしてくれなかったらしい。 星矢の耳打ちに少々落胆した瞬は、だが、すぐに気を取り直した。 瞬自身、氷河と共に過ごすことのできない健全な夜の連続に物足りなさを覚えていたのは事実だったのである。 「大丈夫。僕も1ヶ月のんびりして英気を養ってきたから」 星矢に微笑を返してから、瞬は、未だ無言で瞬からのみやげを眺めている氷河の上に視線を戻した。 氷河が側にいない時は平気だったのだが、氷河の顔を見てしまうと、瞬はその時の感覚を思い出さずにはいられなかった。 むしろ、どうして1ヶ月間もの長い間 一人で眠る夜に耐えられることができたのかと不思議に思えてくる。 これほど強く氷河が欲しいと思ったのは久し振りのことだった。 夜にはまだ間があるというのに、そして、氷河にそのことをほのめかされたわけでもなければ、それらしい態度を示されたわけでもないというのに、瞬は自分の身体の奥が疼くのを感じ、日が暮れるのが待ち遠しいと思った。 その夜 我が身に空前絶後の大惨事が降りかかってくることなど考えもせず、瞬は夜の訪れを待ったのである。 |