神々の熱き戦い [I]






氷河が死んだのは、ある晴れた冬の日のことだった。
彼の死の日にふさわしく、世界は純白の雪に覆われ、空は 彼の瞳と同じ色をして、あるべき場所にあった。
そして、その日から、瞬の苦悩は始まったのである。

瞬を苦しめ悩ませたのは、氷河の死そのものではなかった。
本来なら人を幸福へといざなうはずのもの――希望――が、瞬を苦しめたのである。
自分の愛する者を失い、その命を取り戻そうとした男をひとり、瞬は知っていた。
彼は残念ながら、もう一歩のところで、彼が望むものを取り戻すことができなかったが、彼を陥れようとした者の策略にはまりさえしなければ、おそらく彼は失ったものを再びその手にすることができていただろう。
その男――琴座の白銀聖闘士オルフェ――を知っていること、氷河を生き返らせる方法を知っているという事実が、氷河を失った瞬を苦しめ続けたのである。

悩みに悩んだ末、瞬は冥界に行く決意をした。
「沙織さん、僕を許してください」
アテナを裏切り、冥界の王に膝を屈しに行くことは告げず、瞬はただ謝罪の言葉だけを沙織に手渡した。
沙織は、これから瞬が為そうとしていることを知っているようだった。
だが、彼女は、彼女の聖闘士に何も言わなかった。






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