「氷河……。僕、夕べ 変な夢を見たんだ」
瞬は、いつもと同じように、いつもと同じ場所で目覚めた。
いつもと同じように彼の隣りにいる氷河に、妙な不安に囚われつつ、昨夜の妙な夢を語る。

「変な夢?」
「氷河が僕をおいて死んじゃう夢。そんなことがあるはずないのに」
今 瞬は確かに氷河の体温を感じられる場所にいるというのに、それでも彼は自らの不安を完全に消し去ることができずにいた。
『そんなことがあるはずがない』という呟きは事実ではなく、極めて一人よがりな希望でしかない。
それは“決して起こらないこと”ではないのだ。
それはわかっていたのだが、瞬は氷河に そんな未来を否定する言葉を期待せずにはいられなかった。

氷河は――瞬の幸福だけを望む心を持っている氷河は もちろん、瞬のために、瞬の期待に添ってくれた。
「それはただの夢だ。たとえハーデスが蘇り、俺を死の国に連れていこうとしても、俺は抗うぞ」
「うん……そうだよね」

全く深刻なところのない氷河の微笑と、完全に本気な氷河の言葉は、瞬を安心させてくれた。
氷河が生きていることを確かめるために、彼の心臓の上に右の手の平を当てて、その鼓動に触れる。
それは、瞬の不安を消し去ってくれるほどの力強さをもって、確かに動いていた。
その事実に安堵した瞬は、だが同時に、自分は“その時”がいつ来てもいいように 生きていることを噛みしめておかなければならないと、なぜかそんなことを考えたのである。






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