瞬は彼を善良な人間だと思ったわけではなかった。 むしろ、最初に出会った時から、彼がその身にまとう雰囲気を だが、それが何だというのだろう。 人は、自らの内にある闇を自らの意思の力で抑えようとするからこそ人間なのだ――他の動物とは異なっている。 彼は仕立てのよい黒いスーツを着ていた。 背が高く、容姿もどこか非日常的に感じられるほど優れていた。 日本人でないことは一目でわかった。 瞳は黒。髪の色も、その時瞬と共にいた人物とは正反対に闇の色に沈んでいる。 だが、日本人の多くが生まれながらに持つ“黒”など まがいものにすぎないと感じるほどに、彼の黒は深いものだった。 その黒は、この世界に存在するすべての色を飲み込んで漆黒なのだ。 口許にはいつも冷たくシニカルな微笑を刻んでいる。 温かさを見い出すのが困難な印象。 全身を包む空気も他者とは一線を画しており、親しみやすさのかけらもない。 だが彼は、驚くほど自然に瞬の心の中に入り込んできた。 |