「ところで、君、歳は幾つだ? こんな時刻にこんなところにいるということは学校には行っていないのか」 「あ、はい、じゅう……」 「18か、問題ないな」 「え? いえ、僕……」 少しばかり、会話の進め方が乱暴な人物だと思わなかったわけではない。 が、滅多に人に15歳以上に見られたことのなかった瞬は、彼の目には自分が実際より大人っぽく見えているのだと思うと嬉しくなり、つい顔をほころばせてしまったのである。 そして、それで、瞬の就職話は決まったのだった。 意思の合意、年齢の確認が済むと、途端に彼の話は具体的なものになった。 「ああ、だが、ウチの店で働くにはその服じゃ駄目だな。ダーク系のスーツがいいんだが、持っているか?」 きちんとした服装でなければ、人の心を癒すどころか、まずクライアントの信頼を得ることができないのだろう。 そう考えて、瞬は、彼に頷いた。 「僕、持ってます」 アテナの聖闘士たちは、沙織がパーティに出席するときに護衛と称して同伴を求められる機会が多かった。 その際の仕事着として、瞬は沙織から幾着ものスーツを与えられていたのだ。 「じゃ、それに着替えて、今夜にでもウチの店に来てくれ。形だけの面接をして、早速今日から試用期間ということにしよう」 「お仕事は夜なんですか」 せっかくここまで順調に話が進んできたというのに、思わぬ障害に出会って、瞬が少々落胆する。 瞬自身は、就業時間が昼間だろうが夜間だろうが一向に構わなかったのだが、夜間就業は氷河に心配をさせてしまうことになるのではないかと、瞬はそれを懸念したのだった。 瞬の尻込みを察知したのだろう。瞬のハローワーク窓口担当者が 瞬に迷う時間を与えまいとするかのように 畳みかけてくる。 「昼間の仕事で疲れた人たちが 癒しを求めてやって来る場所なんだ、うちの店は。いい店だぞ」 そう言いながら、彼は瞬に名刺を手渡してきた。 そこに彼の店の所在地と連絡先が記されている。 場所は繁華街として有名な街――瞬はそんなことは知らなかったが――、店名は『ホストクラブ・サンクチュアリ』。 「サンクチュアリ?」 それは、瞬の耳には非常に馴染んだ名称だった。 これはやはり神の思し召しに違いない――。 瞬は、“ホスト”を、店の形態をとった福祉施設での接待役と解し、ともかく その施設に行ってみることにしたのである。 |