「星矢は、キスってしたことある? あの……唇を触れ合わせるだけじゃないキス」
「なんだよ、藪から棒に」
話の振り方が唐突なことも、それが星矢の得意分野でないことも、瞬にはちゃんとわかっていた。
だが、瞬には他に相談できる相手がいなかったのだ。
最も歳が近く、恋愛経験も自分と似たり寄ったりで(つまり皆無で)、それゆえに鼻で笑われることを恐れずに、気軽に立ち入った悩みを話せる相手は。

「それ以上のこととか、やっぱりしなきゃならないものなのかな……」
「おい、瞬」
星矢は、氷河と瞬の間にあったことを知っていた。
数日前に、当の瞬自身が、「氷河に好きだって言われた」と、嬉しそうに彼に報告してきたのだ。
星矢はそのこと自体には驚きはしなかったが、畑違いもいいところの相談が自分の許に舞い込んできたことには 大いに驚いた。
だいいち、そういうことは、余人ではなく氷河にこそ聞くべきことではないか。

「他の人たちは、どうしてそんなことするんだろう」
「気持ちいいからなんじゃねーの?」
「気持ちいい……のかな?」
「おまえに関しては知らねー。おまえ、女の役をやらせられるんだろ?」
「え……?」
星矢にそう言われて初めて、瞬は、自分が立たされている立場の微妙さに思い至ったのである。
未経験――その上に、特殊。
なにしろ、瞬が恋した相手は瞬と同性なのだ。尋常の性行為は行ないたくても行なえない。

「僕……」
にわかに頬を青ざめさせた瞬を見て、星矢は、遅ればせながら自分が非常にマズいことを言ってしまったことに気付いた。
だが、一度口を突いて出た言葉を回収することは聖闘士にも不可能で、その言葉は否定のしようもない事実である。
瞬にすがるような瞳で見詰められても、星矢には為す術がなかった。






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