その日の氷河のキスは、二人が初めて唇を重ねた時と全く同じものだった。 身体を強張らせて、あの感触に耐えるべく身構えていた瞬は、氷河の唇が自分の唇の表層だけをなぞって離れていくと、安堵のあまり全身から力を抜いてしまったのである。 が、そのあとに、氷河の唇から出てきた言葉が、瞬の心を凍りつかせた。 「おまえは、本当は俺が嫌いなんじゃないか」 と、彼は尋ねてきたのだ。 氷河にしてみれば――キスが唇の接触だけで済んだことで安堵の息を洩らされてしまった氷河にしてみれば――それは、ある意味 必然的に生まれてきた疑念だったかもしれない。 瞬は、しかし、すぐに大きく横に首を振った。 そして、半ば悲鳴のように叫んでいた。 「そんなことない! そんなこと言わないで!」 「……」 「どうして、そんなこと言うの……」 どうしてそんなことを言うのか――その訳を、氷河は言葉にすることができなかった。 氷河とて、そんな可能性は考えたくなかったし、認めることも受け入れることもしたくなかったのだ。 「悪かった」 彼の目の前で 涙ぐみ顔を伏せてしまった瞬に短く謝罪して、だが、そのまま瞬の側にいることもならず、氷河はその場から立ち去った。 |