瞬は早くに両親を亡くした。 現在は、両親が残してくれた家に兄と二人で暮らしている。 兄弟が幼かった頃には、遺言執行者やら後見人やらが頻繁に彼等の家に出入りしていたし、通いのハウスキーパーもいたのだが、瞬の兄の高校卒業後には、一通りの家事を瞬がこなせるようになったこともあり、文字通りの二人暮らしになった。 瞬にとって、兄の一輝は、血を分け合った この世に二人きりの兄弟。 当然のごとく瞬は重度のブラコンになったのだが、実は瞬はブラコンよりも重い病を抱えていたのである。 瞬の幼馴染み兼クラスメイト兼親友の星矢が命名した、その病の名は『女の子コンプレックス』。 原因は、瞬の“少女のような”外見にあった。 子供の頃から人に会うごとに言われ続けてきた「女の子のように可愛い」「女の子みたいな顔」「とても男の子には見えない」――等々の言葉が、瞬をその病気にしたのである。 幼い頃には、しかし、その病は さほど深刻なものではなかった。 幼稚園・小学生の頃には、同級生たちより その親たちに女の子と間違えられるトラブル(?)の方が多かったのだが、瞬はそのことで深く傷付くこともなかった。 そもそも そう言われる瞬自身に、男子と女子がそれほど違うものとして認識されていなかったために。 が、思春期以降になると、そこに妙な色気の絡んだ問題が頻発するようになる。 思春期の潔癖症を抱えた女子から、「女の子みたいに綺麗だから、瞬くんとなら付き合えそうな気がする(から付き合ってほしい)」と言われることは、瞬にとっては大変な屈辱だった。 男子から交際を求められるに至っては、屈辱を通り越して『気持ち悪い』になる。 高校に入学すれば兄のように男らしい外見になって、そういう気色の悪いことも起こらなくなるだろうと、瞬は確たる根拠もなく期待していたのだが、運命というものはなかなか意地悪にできている。 身体だけは成人と大差ない同級生・上級生たちの中で瞬の“女の子らしさ”は逆に悪目立ちし、高校生になった瞬は、中学の時よりも はるかに男子に絡まれることが多くなってしまったのである。 |