「おまえな! あんなこと言われて平気なのかよ! カラダが目的って言われたんだぞ、わかってんのか !? 」
馬鹿の相手をすることはもちろん、馬鹿と同じ場所にいることすら我慢ならないと言わんばかりの態度で、氷河が立ち去ったあとのラウンジ。
そこに、星矢は、木霊がたっぷり2分間は残るほどの大きな怒声を響かせた。
星矢は、瞬に対する氷河の傲慢と横暴に腹を立てていた。
場が荒れずに収まったことに安堵しているような瞬の態度にも、腹を立てていた。
無論、彼の立腹のいちばんの理由は、自分が馬鹿だと思っている相手に馬鹿呼ばわりされたこと――ではあったが。

「それは……」
星矢に反駁しかけた瞬は、だが、すぐにそうすることを諦めてしまった――らしい。
あそこまではっきり明言されてしまっては、瞬としても、氷河を庇うための言葉が思いつかなかったのだろう。
瞬は、代わりに、対峙する者に ひどく心弱い印象を与える笑みを浮かべた。
「そうだね……。氷河は、僕の心まで縛ろうとはしないもんね。あれをするなとか、これをするなとか、そういうことは言うけど、自分だけを見てろとか、そういうことは言ってくれない……」

「人の心を縛ることはできないということがわかっているからだろう。奴はそこまで馬鹿じゃない」
落胆する瞬の様子があまりに哀れだったので――紫龍は、瞬の気持ちを浮上させるために、氷河を擁護する言葉を口にしなければならなくなった。
「うん……」
瞬が、やはり気弱な笑みで、紫龍に頷く。
「そうだよね。どんな力をもってしても――人の心を縛りつけておくことは、誰にもできないよね……」
呟くようにそう言って、瞬は顔を俯かせた。






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