シュンの願いは叶えられつつあった。
シュンは、自身の身体がどこにあるのか、どこまでが自分の身体なのかが、わからなくなりかけていた。
『熱い』と感じるこの熱は自分のものなのか、ヒョウガのものなのか、そんなことすらも もはや区別がつかない。
これで自分の願いは叶ったのだと、シュンは不思議な満足感を覚えていた。
だが――。
自分はもう寂しい人間ではなく幸福な人間なのだ、望みは叶えられた――と、シュンが確信したその時に、ヒョウガがシュンの中に押し入ってきた。

二つの身体は溶け合っていると思っていたのに、実際にヒョウガがシュンの中に侵入してくると、シュンは逆に、ヒョウガのそれが自分とは明確に別の存在だと思い知らされることになってしまったのである。
「い……やっ……ああ……っ!」
体内に入り込んできた異物によってもたらされる痛みとその大きさに恐怖し、シュンは身悶えた。
そして、次の瞬間、シュンは自分自身が消えてしまったような感覚に襲われたのである。
実際には、ヒョウガのそれにぴったりと吸いつき、ヒョウガを呑みこんでいるのはシュンの方だったのだが、シュンはその事実に気付くことができず、逆に自分がヒョウガに呑み込まれてしまったのだと思い込んだ――そう感じた。

(僕が消えてなくなる……!)
そうなることを望んでいたはずなのに――そうなることを幸福だとさえ感じていたのに――、実際にその瞬間、シュンは自分が消え失せることを激しく拒絶してしまっていた。
「やだっ! 兄さん、助けてっ!」
唯一の肉親である兄に救いを求めることで。


シュンの悲鳴が、シュンの中に侵入し、更に奥に進もうとしていたヒョウガの動きを一瞬止めた。
悲痛としか言いようのないシュンの掠れた声は、ひどくヒョウガの胸を傷付けた。
だが、ここまできたら、もう止めることはできない。
止めようにも、ヒョウガに吸いつき絡みついてくるシュンの身体の内が、そうすることをヒョウガに許してくれなかった。
兄に助けを求めるシュンの声は、むしろ、ヒョウガが無理に抑えようとしていた獣性に決意を促すことになった。

他の男に思いを馳せている者に優しくしてやっても報われない。
それならいっそ犯したいように犯してしまった方が――少なくとも、犯す側の肉欲は満たされる。
無残に犯されてしまった方が、シュンも身代わりを立てていることの罪悪感を感じずに済むに違いない。
寂しい子供に同情する振りをしながら、結局自分はそうしたかったのだと開き直って、ヒョウガはシュンの脚を抱えあげ、勢いをつけてシュンの中に性器を突き立て、引き抜き、また突き刺すことをした。

シュンがその衝撃に悲鳴をあげる。
そのまま、ただ泣いていればいいものを、シュンはまたヒョウガの下で兄を呼んだ。
「あっ……ああ……にいさ……助け……僕が……」
こうなると、シュンは、自分が暴行者にいたぶられることを望んで、わざとそうしているのだとしか、ヒョウガには思えなかった。
それなら、その望みを叶えてやろうと、ヒョウガは力任せに幾度もシュンを犯し続けたのである。
兄を呼んでいたシュンの声が掠れ、それがやがて意味を持たない音の羅列に変わり、最後にただの喘ぎになるまで。

シュンはもう、自分を犯している男が誰でもいいと思えるような次元に至っているようだった。
胸を上下させ、喉をのけぞらせ、自身を襲う巨大な快感にひたすら耐えている。
「助け……て、僕が……」
(僕が消えてしまう……!)
肉のもたらす快楽に抵抗し続けていたシュンが、最後にその波に呑まれてしまった時、シュンは自分自身がヒョウガの中に取り込まれてしまったと感じて、絶望の悲鳴をあげた。
快楽に抵抗する力を使い果たしたシュンが全身から緊張を解くのを確かめてから、ヒョウガはやっと気が済んだような心境になって、それまで耐え続けていたものをシュンの中に吐き出したのである。






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