心情的にはともかく肉体的には、シュンとの交接はこれ以上ないほどの充足をヒョウガに与えてくれた。
同衾している相手に他の男を呼ばれることなど、これが初めての経験だったのだが、その場にいない男への対抗心はむしろヒョウガを猛り立たせた。
実のところヒョウガは、昨夜ほど真剣に性交に挑んだことが、これまで一度もなかったのである。
かつてないほどの満足と充足は、受容体としてのシュンの身体の出来の良さのせいばかりではなかったろう。

「あの……今日はもう帰ってしまうの」
ヒョウガに少し遅れて目覚めたシュンは、朝の光の中で、『おはよう』を言う代わりにヒョウガに尋ねてきた。
シュンは、夕べ自分が行きずりの男に我が身を貫かれながら 兄を呼んでいたことを憶えていないらしい。
初めての性交であれだけ乱れていれば、記憶が飛んでいるのも当然のことで――だから、ヒョウガはシュンに皮肉のひとつも言うことができなかった。
かつて経験したことがないほどの快楽を与えてもらったことは事実なのである。
ヒョウガは、ともすれば口を突いて出そうになる嫌味を、無理に喉の奥に押しやった。

「この辺りに、昔のことを知っている古老はいないのか」
「みんな、新しい町に移っていったの」
「騒がしいのは嫌いだ。しばらくここにいる」
喧騒が好きではないのは事実だった。
母の消息を尋ねてまわりたいのも、そもそもそれがヒョウガがここにやってきた唯一の目的である。
だが今は――今は、ヒョウガは、この理解の難しい少年とこのまま別れてしまいたくなかったのである。
ここにやってきた本来の目的は、もはや急ぐことに意味のない目的になり果てていた。

シュンは本当に、昨夜自分がヒョウガの下で喘ぎながら兄に救いを求めていたことを憶えていないらしい。
ヒョウガの返事を聞くと、彼はぱっと瞳を輝かせた。






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