自分に課せられた仕事がシュンの身辺警護だと知らされると、彼は勤勉にその仕事に取り組み始めた。
シュンの家はウァレリウス家に連なる名門で、今は亡き両親は帝国の各地に多くの領地と財産を、シュンとシュンの兄のために残してくれた。
シュンが現在の住居としている館も、所有する別荘の一つに過ぎなかったが、百近い数の部屋と広い庭園を有する贅沢な造りのものだった。
そこに“主人”として暮らしているのはシュンひとりだけなのだから、奴隷のための部屋はいくらでもある。
他の奴隷たちにそうしているように、シュンはヒョウガにも部屋を一つ与えようとしたのだが、彼はそれを固辞した。
主人の身を守ることが仕事なのだから、夜はシュンの寝台の足許で寝ると、彼はシュンに言ってきたのである。
シュンはヒョウガの申し出に驚いたのだが、シュンを育ててくれた老体は、ヒョウガの提案を至極当然のこととして受け入れた。

「良い心掛けだ。暗殺者はいつ どうやってくるかわからないし、若様の身辺は色々と危険が多くて、寸時も油断がならない」
「暗殺? おまえのような子供を殺して、何の得があるんだ」
「うん……。ほんとだね」
その時にはシュンは微笑って頷いたのだが、実際にシュンはそれから幾度も姿の見えない“敵”の害意にさらされ、そのたびにヒョウガは身を挺して己れの主人の命を守ることになったのである。

館の内に蠍や毒蜘蛛が放たれたこともあったし、購入した衣装に毒を含んだ針が仕込まれていたこともあった。
外出をすれば、三度に一度は暴漢に襲われた。
彼等は明確に殺意を抱いていることもあったし、目的は脅しにすぎないのではないかと思えるようなこともあった。
それらすべてをヒョウガは撃退し、そのたびにヒョウガは彼の主人から『ありがとう』という言葉をもらうことになったのである。

老人はシュンの外出に良い顔は見せなかったが、これまで館の奥に閉じ込められていた分、シュンは外に出たがり、ヒョウガが一緒だからと老人を説得して、シュンは自分の望みを叶えようとした。
シュンがヒョウガに与える『ありがとう』の言葉が20を超える頃には、老人も彼の年若い主人の外出に文句を言うことはなくなった。
どちらにせよ、館の内にいても外にいても、シュンの身が危険なことに変わりはなかったのだ。
老人の足腰が弱ってきていたせいもあり、ヒョウガとシュンは二人で出歩くことが多くなった。
そうしているうちに、ヒョウガは、シュンが暗殺の危険にさらされている理由を知ることになったのである。






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