翌日、瞬はもちろん、車上荒らし退治の続きを楽しむつもりで、外出の準備を万端整え、張り切ってラウンジにやってきた。
が、あいにく瞬は、その場に、自分におやつを奢ってくれるはずの男の姿を見い出すことができなかったのである。

「あれ、氷河は?」
「おまえとクレープ食いながら過ごすのも楽しいが、これ以上 沙織さんを怒らせるのはマズいっつって、さっき出掛けていったぞ」
「一人で……?」
星矢の言葉を聞いて、瞬の浮かれた気分が一気に冷める。
そして、今日はあの公園で何が食べられるだろうかと、そんなことばかりを考えていた自分を、瞬は大いに恥じ、また大いに反省することになったのである。

車上荒らし退治に意欲的とは言い難い態度を見せていた氷河が、自主的にその遂行のために動き出した――。
これが良いことの前兆であるはずがないのだ。
面倒を長引かせることを厭うた氷河が、手っ取り早く事態の解決に及ぶために、良識ある連れを伴わずに一人で現場に出掛けていった――瞬は、この状況をそういうものだと解釈判断したのである。
否、それはほとんど確信だった。

「氷河って、加減って言葉を知ってるかな? 相手は一般人だよ」
「いくら氷河でも一般人を殺したりはしないだろう。氷河は、個人的な恨みのない奴には寛大な男だ」
「寛大というより、無関心なんだろ」
「どーでもいい奴等だから手加減を忘れるということもありえるな」
直接アテナの命令を受けていない者たちの態度は、実に気楽なものである。
星矢と紫龍の言葉は、瞬を非常に不安にした。

「星矢も紫龍も、なにそんなノンキなこと言ってるの!」
たとえ犯罪者でも、あの怪しい目付きをした青少年たちは一般人なのである。
氷河が彼等の相手をするということは、明白に弱い者いじめだった。
そして、その弱い者いじめを行なう人間が圧倒的な強者である場合、それは度を超えたリンチにもなりかねない――のだ。

そんなことで氷河を前科者にするわけにはいかない。
そう考えた瞬は、慌てて氷河のあとを追いかけたのである。






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