瞬王子の健気な決意は、氷河王子の心を大きく揺さぶりました。
こんなに綺麗で、こんなに素直で、こんなに優しく強い心を持った瞬王子が、自分に非のないことで被ることになった呪いを 健気に耐えようとしているのです。
氷河王子は、多くの間違いを犯した瞬王子の父君と、無駄にプライドの高い美の女神と、そして、気のきかない瞬王子の兄君に、瞬王子の代わりに憤ることになりました。

「おまえの兄貴とやらも、もう少し柔軟な対応策を講じればいいのに。おまえをこんなところに閉じ込めたりしないで、例えば城内に女子禁制のスペースを作るとか、やり方は色々あるだろう」
腹を立てたように言い募る氷河王子に、瞬王子は首をかしげることになったのです。
そして、瞬王子は氷河王子に尋ねました。
「恋って、女の人とだけするものなの?」
「普通はそうだろう」
と、あまり深く考えずに即答してから、氷河王子は自身の答えを疑うことになったのです。
はたしてそうだろうか――と。

なにしろ昨今の世の中は乱れています。
その上、瞬王子は、男子でありながら美の女神が嫉妬を覚えるのも道理と納得できるほど 清楚で可憐な様子をしています。
それは汚れを知らぬ野の白い花のよう。
もしかしたら、瞬王子がこの塔に閉じ込められる前から、この国のお城には 瞬王子を変な目で見る男性陣が結構いたのではないでしょうか。
だからこそ瞬王子の兄君は、同性との接触もできないようにと考えて、この塔に瞬王子を閉じ込めることにしたのではないでしょうか。
瞬王子の兄君の用心と懸念が、氷河王子にはわかるような気がしたのです。
他でもない氷河王子自身が既に、とっても危ない気持ちになり始めていましたから。

「じゃあ、氷河と会うのは平気なんだ。僕、氷河みたいに綺麗で優しい人と一緒にいたら、すぐに氷河に恋っていうのをしちゃうんじゃないかと不安だったの」
瞬王子は、氷河王子の言葉に安心したように微笑んで、ほっと小さな吐息を洩らしました。
そんな瞬王子とは対照的に、氷河王子の心臓は 何やら急に騒がしい活動を始めます。
氷河王子は、そんな自分自身を明確に自覚しました――自覚していました。

ですが、氷河王子は、伊達に瞬王子より年上なわけでも、伊達に白鳥になって世の中を見てきたわけでもありません。
自分が瞬王子にとって危険人物であることを知っていながら、
「ま、普通は安全だろう」
と、素知らぬ顔で言ってのけるくらいの狡猾さを、氷河王子は持ちあわせていたのです。
けれど、氷河王子を責めてはいけませんよ。
恋とは、どんな戦略を用いることも許されている 地上で唯一の戦いなのです。

瞬王子は、なにしろ人を疑うことを知りません。
氷河王子の言葉に力を得て、それでも少し遠慮がちに、瞬王子は氷河王子にお願いしたのです。
「じゃ……じゃあ、あの……あのね。また僕に会いに来てくれませんか。僕、ここから出られなくて寂し……あの、退屈なんです」
――と。

瞬王子が『寂しい』と本当のことを言わなかったのは、自分の望みが氷河の負担になることを恐れたからでした。
そして、それがわからない氷河王子ではありませんでした。
その思い遣りが、氷河王子の恋心の決定打になってしまったのは、何という運命の皮肉でしょう。
「明日から毎日会いに来てやろう」
と、氷河王子が瞬王子に答えた時、氷河王子は既に瞬王子への熱烈な恋の虜になってしまっていたのです。






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