気が付くと、氷河王子は朝の光の仲で白鳥の姿に戻ってしまっていました。
ベッドの隣りでは、瞬王子が、ちょっと肩を揺さぶるくらいでは目覚めそうにないほど深い眠りの中に沈んでいます。
瞬王子は髪が少し乱れ、頬には涙の跡も残っていました。
平生の瞬王子の清楚な様子からは想像もできないほど凄艶なその寝顔は、けれど、あどけない子供のようにも見えました。
そして、確かに幸せそうでした。

氷河王子は、ですから、これから二人は不幸になるのかもしれない――という不安を感じることができなかったのです。
互いにこんなに求め合っている二人が、どうして不幸になどなれるでしょう。
瞬王子に受け入れてもらえたことが、氷河王子を、そんなふうに考えずにはいられないほど幸福な人間に――もとい、幸福な白鳥にしていました。

氷河王子は、瞬王子が可愛くてなりませんでした。
瞬王子をもっともっと幸せにしてやりたいと思いました。
それで、氷河王子は、いいことを思いついたのです。
氷河王子のお城のお部屋には、氷河王子の母君が残していってくれた指輪がありました。
それを愛の証として瞬王子に贈ったら、呪いに縛られて不安な瞬王子の心も少しは安らぐのではないか――と。

極東の島国では、『思い立ったが吉日』と言うとか。
氷河王子は、幸せそうに眠っている瞬王子の髪に嘴でキスをして、すぐに北の国に向けて飛び立ったのです。
瞬王子に贈る母君の形見の指輪を取ってくるために。
もちろん、氷河王子は、指輪を手にしたら すぐに瞬王子の許に戻るつもりでした。
ところが。
氷河王子が自分の城の王子のための私室の窓に飛び込んだその瞬間、彼は人間の姿に戻ってしまったのです。
まだ太陽は、天で眩しく輝いているというのに。

それはちょうど、あの高い塔の部屋のベッドで瞬王子が目覚めた時でした。
隣りにいるはずの氷河王子がそこにいない寂しさに胸を締めつけられながら、瞬王子は『きっと、この気持ちは恋というものに違いない』と思いました。
瞬王子が氷河王子への恋を自覚した、まさにその瞬間、氷河王子の呪いは解けてしまったのです。
真実の恋を手に入れた氷河王子は、白鳥の姿になれなくなってしまったのでした。






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