氷河王子は、自分の呪いが解けたことを喜ぶどころではありませんでした。
呪いが解けたということは、瞬王子もまた、自分に真実の恋をしていてくれたことの何よりの証でしたが、今はそんなことを喜んではいられません。
もしこのまま氷河王子が瞬王子の許に、文字通り“飛んで”いけなかったら、あの高い塔の部屋にたった一人で残された瞬王子はどうなってしまうのでしょう。

初めての××の直後に姿を消してしまった恋人。
瞬王子の前にある現実は、ただそれだけなのです。
寂しさにその瞳を濡らすだけならまだしも、瞬王子は、氷河王子に自分は嫌われたとか、捨てられたとか、裏切られたとか、そんなふうに考えざるを得なくなるのではないでしょうか。
いいえ、例の呪いのこともありますから、氷河王子は自分のせいで死んでしまったのだと信じてしまうかもしれません。

氷河王子は、すぐに瞬王子の許に飛んでいきたかったのです。
けれど、普通の人間が北の国から瞬王子の国に行くには、通常の旅なら1ヶ月、どんな無理をしても半月はかかるのです。
たった半日会いに行くのが遅れただけで、塔から身を投げてしまおうかと思うほど氷河王子を待ち焦がれていてくれた瞬王子が絶望するには十分すぎるほどに、それは長い時間でした。
それでももちろん、氷河王子は瞬王子の許に向かって旅立ちましたけれども。






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