ヒョウガは 彼がその事実を思い出したのは、頭を冷やすために、例の高台から海の中に飛び込んでからで、イタケの島が浮かんでいるイオニア海は、まさしくヒョウガの嫌いなぬるい海だった。 が、その海で、ヒョウガは頭を冷やすことはできなかったが、肝を冷やすことはできたのである。 ヒョウガ以外の動物は存外にぬるい海を好むものらしく、イタケの島を囲む海には 実に多くの生き物が生息していた。 そして、その動物たちの中には極めて強い毒を持つ海蛇もいた。 無防備に危険な海に飛び込んできた人間を食い散らそうとする巨大な体躯をもった海蛇自体は 難なく倒すことができたのだが、その際ヒョウガは毒を含んだ海蛇の牙に腕を噛まれてしまったのである。 ぬるい海どころか、毒によって生じた高熱に苦しむことになったヒョウガの命を救ってくれたのは シュンだった。 シュンは、ヒョウガを襲った海蛇の仲間がいる海域に潜って、その毒消しの材料になる蛇貝を海の底から拾ってきてくれたらしい。 『らしい』というのは、海蛇の毒に噛まれて床に就いていたヒョウガは その現場を見ていなかったからで、彼がその事実を知ったのは、 「なぜシュンが貴様ごときのために命を賭けるような真似をしなければならないのだ」 と言ってヒョウガに不満をぶちまける黄金聖闘士たちのおかげだった。 自分がヒョウガのために冒した危険について、シュンはセイヤやシリュウには口止めしていたらしかった。 『らしかった』というのは、ヒョウガはその事実を、体力が回復してから セイヤの失言によって知ったからである。 「おまえに恩を着せるようなことはしたくなかったんだろう」 「言っとくけど、毒消しがあるってわかってたら、ちゃんと俺たちが取りに行ってたんだぞ。おまえが毒蛇の毒にやられたって聞いた途端、シュンの奴、俺たちには何の説明もしないで海に飛び込んじまったんだ」 セイヤは本当は、その事実を仲間に知らせたくなかったらしい。 知らせてしまえば、それでなくても異常な事態が 更に複雑になることが、彼にはわかっていたのだ。 「惚れるなよ! って言っても無理だよなぁ……」 セイヤの懸念通り、事態はますます複雑になってしまった。 |