夢を見ているような瞳で海を見詰めるシュンを その場に残し、シリュウは城の高台を出た。
居住区に続く石の階段を下りきったところに、不機嫌そうな顔をした この任務の司令官が立っている。
「どういうつもりだ」
「おまえの代わりに告白してやったんだ」
「あることないこと言っていたようだが」
「全部“あること”だろう。あの様子では、シュンが男も女も知らないのは事実のようだ。それを確かめることができただけでも、俺はおまえに感謝されてしかるべきだと思うが」

「……」
それは確かに感謝してもいいことのような気がした。
自分が直接シュンに告げたかったことを 他人の口から伝えられてしまったことには 憤りを禁じ得ないが、ともかく、その低次元かつ嬉しい現実が ヒョウガの胸中にあった 嫉妬心とわだかまりを綺麗に払拭してくれたのは紛う方ない事実だったのだ。

「おまえたちは、愛することの飢えと愛されることの飢えという、二つの欲望が見事に合致しているんだ。アテナは案外、こうなることを察して、おまえを この任務の責任者に任じたのかもしれない」
「俺は、アテナに命じられたことを何ひとつ やり遂げていないぞ」
勝手に恋の代弁者になってくれたシリュウを、結局ヒョウガは責めることができなかった。
それでも完全に許してしまえない気持ちが、ヒョウガの声音を不機嫌なものにする。

そしてシリュウは――シリュウも――、感謝の気持ちの薄い仲間を非難するようなことはしなかった。
「シュンに恋させることをしてのけたじゃないか。大手柄だ」
シリュウは、大仰にヒョウガを褒めそやしてから、
「まあ見ていろ。10日もしないうちにシュンの魔力は消え失せる」
と自信たっぷりに言って、含みのある微笑を作った。






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