くだんの男性は翌日また瞬を訪ねてきたのだが、氷河は瞬に彼と直接会うことを許さなかった。
何が正しいことなのかを知っていても 情に流されやすい瞬の代わりに氷河が、きっぱりと彼の望みを断ち切る役目を負ってくれた。

「瞬には会わせられない。自分のしたことを後悔しているなら、貴様は、二度と同じ後悔をしないように生きるべく努めるべきだ」
「……」
彼は、自分よりはるかに若い男にそんなことを言われることに恥じ入ったらしい。
本来は聡明な人間なのだろう。
彼の望みは、後悔という名の愛情が 一とき彼の判断を狂わせたために生まれたものに過ぎなかったに違いない。

黙りこくってしまった客人を、氷河は玄関まで見送りに出た。
彼にしては出血大サービスである。
氷河のとてつもない気遣いに気付いてもいないのだろう男性に、氷河は最後に、
「お袋さんはわかっている」
と低く告げた。
彼は、理屈の上ではともかく、感情の上ではまだ割り切れていなかったらしい。
氷河に少し切なげに頷いて、彼は彼の家に帰っていった。






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