もちろん、そんな不公平より、自分自身の未熟への苛立ちより、瞬と“会って”いることの方が大事だということを、氷河はわかっていた。 わかっていることと、わかっているにも関わらず抑えきれない苛立ちのせいで、いつもより瞬に無理をさせたという自覚もあった。 だから、氷河は驚いたのである。 一晩休めばすぐ回復するにしても 瞬の体力を吸い尽くし、その心身に快楽を与え続けることで 瞬の意思と意識とを奪い取る――。 子供じみた恋人にそんなふうにされて疲れきり、泥のように深い眠りに就いていたはずの瞬が、真夜中にふいにベッドに身体を起こしたことに。 肩に触れていた瞬の髪と額の感触がふっと消えたために、氷河は、真夜中の瞬の不自然な所作に気付き、目を開けた。 「瞬?」 瞬は、ベッドに上体を起こし、何も見るべきもののない虚空を見詰めている。 小さなセーフティライトの光が、それでなくても白い瞬の身体を、夜の闇の中に 更に白く浮き上がらせていた。 「瞬、どうかしたのか?」 氷河は、彼もまた身体を起こし、瞬の細い裸の肩を掴み、その瞳を覗き込んだのである。 氷河の視線に気付くと、瞬は、顔を僅かに氷河の方に傾けて、ゆっくりと言葉のない微笑を作った。 その微笑に、氷河は妙な違和感を覚えたのである。 瞬の笑顔はいつも優しいが、どこかに幼さが残っているのが常だった。 だが、今の瞬の笑みにはそれがない。 その微笑が瞬のものではないことに気付き――しばしの時を置いて、それが誰のものなのかに気付き――氷河はありえないほど慌てふためくことになってしまったのである。 「マ……」 声にならない――というより、その言葉を声にすることを自らの理性に断固拒否されて、氷河はその人を呼ぶ声を途中で途切れさせることになった。 瞬でない瞬が、もう一度微笑む――どこかいたずらっ子のそれのような微笑を浮かべる。 その次の瞬間には、すうっと目を閉じ、瞬の身体は氷河の腕の中に倒れ込んできていた。 瞬の四肢には力がなく、瞬はぐっすりと眠っている。 部屋中に鼓動の音が響いているのではないかと思うほどに心臓を大きく波打たせながら、氷河はその身体を――愛撫の跡が残る瞬の身体を――ゆっくりとシーツの上に横たえたのである。 “彼女”は確かに微笑んでいたのに、氷河は彼女に手厳しく叱られたような気分になっていた。 よりにもよって、散々瞬と身体を交わらせた直後に、その身体、その瞳で母親を見せられてしまっては、息子として気まずいこと この上ない。 彼女の息子は、不公平の何のと 子供のような我儘を言っている場合ではなかったのだ。 むしろ、公平に出てこられては大いに まずいことに気付いて、氷河は低い呻き声を洩らし、その手で顔を覆った。 |