翌日曜日、俺は瞬と連れ立って、マーマとマーマの新しい夫が暮らす家に向かった。
マーマは大喜びで俺を歓迎してくれ、マーマの夫も、どこか瞬のそれに似た微笑で 俺を迎え入れてくれた。

実際に会う前から もうわかっていたが、俺の新しい父親は、いわゆる“いい人間”だった。
どこか人の良さそうな様子があって、眼差しにはありありと誠意と思いやりがたたえられている。
見てくれも、俺ほどではないにしても、なかなかのものだった。
俺から大事なマーマを奪った男――が、俺はもう不思議に憎くはなかった。
この男は、俺の瞬を育ててくれた人物で、瞬が愛している男なんだから。
瞬のために、俺は彼を父と呼び、白々しい弁解を試みた。

「何か誤解があったようだが、俺はただ新婚の二人に気を利かせただけのつもりだったんだ。普通に同居を断ったら、遠慮しているだけだと思われるだろうから、あえて断固 同居したくないポーズをとっただけで」
「……」
マーマは俺の言い訳を疑っているようだった。
当然だろう。嘘なんだから。

「あの……氷河は、この機会にマザコンを脱却しようとして、それでお母さんと離れて暮らそうって思ったんだそうです。それで、最近 僕もちょっと自立心に目覚めるお年頃で、だから僕、これまで通り氷河と一緒に暮らしてたいって思ってるんです……」
「瞬……」
瞬はどういうつもりで そんなことを言い出したのか――。
「あの……だめかな。氷河の世話は、僕が責任をもって全部するから。僕、世話してあげられる人がいないと寂しいの」

「そ……そりゃあ、瞬ちゃんなら何でも私以上にできるから、瞬ちゃんが氷河と一緒にいてくれるのなら安心だけど、でも――」
マーマは、瞬の提案に戸惑っているようだった。
俺はもっと戸惑っていた。
墨しか作れないはずの瞬のこの自信はいったいどこから湧いてくるんだ?

戸惑い、進退を決め兼ねているマーマに決定をくだしてくれたのは、瞬の大事な“お父さん”だった。
彼はやわらかい微笑を浮かべて、俺と瞬の二人暮らしを許してくれた。
もっとも彼が即断することができたのは、決して彼が決断力に優れているからではなく、彼は瞬の涙や“お願い”に弱いだけのようだった。
俺と同じように。
俺の新しい父親は、確かに親近感の湧く男ではあった。

ともかく、その日、俺と瞬と俺たちの両親は 絵に描いたような家族団欒図を描き、その後、俺と瞬は俺たちの家に帰った。
瞬は終始嬉しそうにしていた。
だから俺も嬉しかった。
瞬がたとえ俺の告白の真意に気付いてくれていなくても、瞬が明るく笑っていてくれるなら、それで俺には文句もない。
“満足”というのではなかったが――少し切なくもあったが――今 実現し得るベストの状態だと思った。






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