兄と氷河の前で、瞬は長いこと 無言で考え込んでいた。
その沈黙の中で気を揉みながら、氷河は実は全く期待していないわけではなかった。
『僕のことで みんなに迷惑をかけたくない……。氷河、もしよかったら僕と……(ぽっ)』
――という展開を。

瞬がそんなことを言うはずがないと思いながら、それでも氷河は期待せずにはいられなかったのである。
瞬を好きだと初めて意識した時からずっと、当然のごとく自分の内に生まれた その願望に、氷河は長いこと支配され、悩まされ続けてきたのだ。
氷河自身は、それを瞬を“汚す”行為と考えたことはなかったが、瞬が望まないなら、当然の帰結として、それは瞬を“汚す”行為になってしまう。
少なくとも瞬は、『汚された』と思うだろう。
そうならないためには瞬自身がそれを欲してくれなければならず、しかし、瞬がそんなことを望むことがあるとも思えない。

かくして、瞬を欲する氷河の苦悩は深まり、夢の中で瞬を汚しては深夜に目を覚ましてしまうような夜が続き――それでも瞬に無謀を働くことのできない自分に思いを至らせて、そのたびに、自分は本当に瞬が好きなのだと思い知る。
そんな日々に、いい加減 終わりがきてもいいのではないかと――それは、氷河の身勝手な願望だった。

長い沈黙のあとで、瞬がついにその顔をあげる。
瞬が辿り着いた答えは、もちろん氷河の期待を裏切るものだった。
しかし、それは氷河の予測通りでもあり、ある意味 最も瞬らしい“答え”でもあったのだが。
瞬は、兄と氷河に向かって、
「僕は闘う!」
と、宣言したのだ。

「なに?」
「誰にも迷惑はかけない。僕自身が闘って、その悪魔っていうのを追い払う」
「しゅ……瞬。しかし、この馬鹿と しちまった方が手軽に敵を撃退できるんだ!」
そう言ったのは、あろうことか一輝だった。
しかし、瞬は、そんな兄に向かって、
「それは絶対にいや」
と断言した。
一輝が、心を安んじたような、気の抜けたような、何とも複雑な顔になる。
一輝以上に、氷河の心中は複雑だった。






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