これは俺だけのものだという思いが、氷河をいつもより猛々しくさせていた。
氷河の四肢に力が込められるたび、瞬は波間に浮かぶ木の葉のように大きく揺れ、波の愛撫に翻弄される。――そう見える。
だが、実は、一見頼りなげに見える木の葉の方が海を翻弄しているのだ。
氷河はそう思っていた。

「あっ……あっ……っ!」
間歇的だった瞬の声が、氷河に攻め立てられて掠れ、やがてそれは荒い息の音だけになる。
既に幾度か高みに登り詰めかけている瞬を無理に地上に引き戻して更に攻め立てることを続けていた氷河は、瞬の意識が薄れかけていることに気付き、その無慈悲な行為を終結させてやることにした。
これが終わりだという合図を兼ねて、瞬の中に深く突き刺す。

「ああああっ!」
強い電気に全身を貫かれでもしたかのように大きく身体を反りかえらせ、最後の力を振り絞るようにして叫んだ瞬は、やがて身体を支えるための力をすべて失い、その身を白いシーツの上に重く沈み込ませた。
だが、瞬のその部分は、ひくひくと痙攣し、なお氷河に絡みついてくる。
そこに氷河は、彼自身が耐えていたものを初めて放った。
最近、氷河は意図的に遅漏気味だった。
自身の欲望の解放や充足よりも、瞬を翻弄し瞬に絶頂感を味あわせることに より大きな満足を覚えるせいで、瞬が至ったことを確かめてからでないと、自分の身体が欲していることに思いが至らないのだ。

瞬を失うことが恐ろしく、瞬を自分から離れられないものにしたかった。
“瞬”が“氷河”に支配され、その支配に瞬の感覚が屈服し充足すること以外の現象は、氷河にとってはもはや付随的事象でしかなかった。
自分の生理現象などどうでもいい――瞬がいつでも自分のものでいてくれさえすれば。
氷河には、それが何よりも大事なことになっていた。

氷河の下に横たわる瞬は、まるで死にかけた人間のようだった。
意識を失っているのに、心臓だけが異様に強く速い活動を続けている。
その唇に唇を重ねたら、瞬は目覚めてくれるだろうかと思い、瞬の胸の大きな上下が収まるのを待って、氷河は瞬に口付けた。






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