この騒ぎの最大の被害者は、パソコンの画面に映し出された100枚に及ぶ自分の顔写真を見た時点で、言葉を失ってしまっていた。
これまで氷河の顔が問題なのだと思って悪戦苦闘を続けていたのに、実は問題は自分の方にあったのである。
瞬の驚愕と憤りは並大抵のものではなかった。
2人のためを思ってしたことが、結果的にはただの自分勝手に過ぎなかったことを知らされて、瞬はただ呆然とすることしかできなかったのである。

やがて我にかえった瞬は、恋人に勝手に顔を変えられてしまった男に、泣きそうな目を向けた。
サガへの怒りが哀れさに打ち消されてしまったらしい氷河は、今は元の無表情に戻っている。
その瞳に、浅慮愚行をしでかした恋人を責める色のないことが、瞬はかえってつらかった。
いずれにしても、今の瞬にできることは、彼に謝罪することだけだったのだが。

「氷河……氷河、ごめんなさい……! 僕、こんな馬鹿なことに踊らされて、氷河に勝手なことしちゃって……」
「あ、いや、俺は別に、おまえが俺を好きでいてくれるなら、自分の顔が地味でも派手でもどうでもいいから」
「氷河って優しい……。やっぱり、大好き……」

氷河の寛大と優しさに心打たれ、瞬はよよ・・と泣き崩れるようにして、彼の胸に飛び込んでいった。
実は自分の顔の造作など 本当にどうでもよかった氷河は、突然天から降ってきたようなこの幸運を喜んで、涙で頬を濡らした瞬の身体をしっかりと抱きしめたのである。

「あんの大馬鹿黄金聖闘士、肖像権侵害で訴えて、ブログなんかやってられないようにしてやる……!」
氷河の胸の中で感動の涙に暮れながら瞬が呟いた言葉は、アタマの中で『氷河、大好き』がリフレインしていた氷河の耳には全く聞こえていなかった。
氷河と瞬に距離を置いたところに立っていた星矢と紫龍には、瞬の呟きがしっかり聞こえていたのだが、だからといって彼等に何ができるわけでもない。
彼等は背筋に冷たいものを感じつつ、ひたすら沈黙を守り続けていた。






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