聖なる夜、瞬は非常に可愛らしかった。
素直で純朴で健気だった。
好きだと告げることは半年も前に済ませていたが、なかなか最後の一線を超えることができずにいた氷河は、その夜、実に芸なくストレートに瞬に告げたのである。
「俺はおまえを好きだから、おまえを抱きしめたい」
――と。

そして、おそらくは、その言葉が告げられたのが聖夜のことだったから、氷河の言葉に神聖なものを感じた様子で、その営みには何か重要な意味があるに違いないと思い込み、瞬は氷河の希望に応えてくれたのだ。
「僕は、あの……どうすればいいのか、よく知らないから、僕がその……変なことや無作法なことをしても許してね」
などと可愛いらしいことを言って。

さんざん氷河に喘がされ、無理な体勢をとらされ、客観的に見れば不自然この上ない無体を強いられたというのに、瞬は、コトの後には、自らに無理を強いた男を責めるどころか、
「僕、変なことしなかった?」
と心配顔で氷河に尋ねてきさえしたのである。

「おまえが嫌でなかったら、俺は、明日の夜もあさっての夜もこんなふうに過ごしたい」
本音を言えば、瞬が多少嫌がっても氷河はそれをしたかったのだが、そこまで馬鹿正直なことを言ってしまうほど、氷河は愚かな男ではなかった。
もっとも、たとえ彼が愚直な正直者であったとしても、結果はさして変わらなかっただろう。

氷河のその言葉を、未熟な恋人の不手際を寛大に許そうとする氷河の思い遣りから出たものと解釈したらしい瞬は、氷河の図々しい要望を彼の優しさと受け取って、恥ずかしそうに瞼を伏せ、
「氷河……ありがとう」
と感謝の言葉を彼に返してきたのだ。

氷河が、そのまま勢いに任せて再び瞬を押し倒し、この可愛らしい恋人をもっともっと乱してみたいという衝動にかられたとしても、それは氷河だけに非のあることとは言えないだろう。
無論、氷河は、ここでも正直な獣になることはしなかった。
自身の欲望をなんとか抑え、逸る心と身体をなだめつつ、あくまでも優しい眼差しと穏やかな口調を維持したまま、彼は、
「もう明日だ」
と、瞬に告げた。
そうしてから、彼はゆっくりと瞬の唇に自分のそれを重ねたのである。

その神聖なる行為に再び挑もうとする氷河に、瞬はかなり驚いたようだった。
が、瞬はすぐに、自分は氷河に『嫌でない』気持ちを示さなければならないと思ったらしい。
言葉では言いにくい その思いを示すために、瞬は自らの手をおずおずと氷河の背にまわしてきた。
氷河の愛撫によって洩れそうになる声を押し殺すためには、そうすることが有効だということを、瞬は早くも学習したらしく、氷河の背にしがみついてくる瞬の腕は、氷河の目には健気に映るほど必死だった。

絵に描いたような聖なる夜。
『初々しい』という言葉が この世に存在する意味を、その夜 瞬のそんな健気に触れることで、氷河は初めて理解したのである。
その行為に、好きな気持ちを証明するための試練と思える部分があったのは――つまり、その行為が相当の痛みを伴う行為だったことは――氷河には、逆に良い方に作用したようだった。
闘いに身を投じ人を傷付けることよりも、我が身を犠牲にすることで問題解決を図りたがるアンドロメダ座の聖闘士には、それゆえ、その行為が正しく好ましいことに感じられたらしいのだ。

もちろん、瞬は、氷河を命を賭けた闘いを共にしてきた仲間と思っていた。
当然、恋人としての氷河をも信じきっていた。
その信頼が瞬に心身から氷河を受け入れせた。
そういう2人のことであるから、幾つもの夜と相当の回数をこなさなくても、まもなく瞬の心身は、氷河とのそれが非常に気持ちの良いことでもあると実感できるようになっていったのである。

そうなればなったで、氷河に与えられる刺激に喘ぎ歓喜する自分に羞恥を覚えるらしく、瞬は、房事の間中、自分を取り戻すことと放棄することを、氷河の下で幾度も繰り返すことになった。
その様がまた、えもいわれず氷河の欲望を刺激する――のだ。

ともかく氷河は日本のクリスマスというものに、感謝していた。
そして、この瞬を永遠に自分だけのものにしておけるのなら、瞬の少々のブラコンや少女趣味、時に現実社会を無視しているように示される潔癖や 聖書の教えそのままの敵への寛容等、実社会を生きていく上では障害にしかならないようなことも、認め許し付き合っていけると、彼は思ったのである。






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