聖なる夜が過ぎると、日本人は今度は慌しく新年を迎えるための準備にとりかかる。 星の子学園で正月の餅を用意するための餅つき大会が行なわれるという知らせを受けた瞬が、手伝いに行こうと言い出した時、氷河が笑顔で瞬に付き合うことにしたのは、そうすることで、ボランティア精神に富み 子供に優しい自分を、瞬に印象づけることができるだろうと思ったからだった。 決して、土産に手渡されるだろう餅が欲しかったからではなく、子供たちの相手をすることが好きだったからでもない。 氷河はただ、瞬がどういう人間を好ましく感じるのかを熟知していただけだった。 星の子学園での餅つき大会自体は つつがなく終わった。 杵で餅をついているというより、杵の重さに引っ張られているだけで尻餅さえつけていないような子供たちの後始末を買って出て、もち米を餅にする仕事にも、氷河は喜んで従事した。 それもこれも、無理な笑顔で子供たちに優しくしてやれば、自分に対する瞬の評価が上がるのだと思えばこそである。 星の子学園の腕白小僧たちが、『雪が見たい』『雪合戦がしたい』と うるさくまとわりついてくるのを素っ気なく無視しなかったのも、子供たちの願いをむげにできない優しい男を、瞬の前で演じるためだった。 子供たちが喜べば、瞬も喜ぶ。 そう思えばこそのショーであり、サービスだったのである、それは。 氷河が瞬と子供たちに披露したショー。 それはすなわち、盛大なダンスつきのダイヤモンドダストを放つことだった。 局地的に発生した超低温が大気中の水分を雪と氷に変え、やがて それらは大地におりてくる。 星の子学園の庭が純白の雪で覆い尽くされるのに、さほど長い時間はかからなかった。 突然目の前に出現した小さな雪の原に、子供たちが歓声をあげて飛び込んでいく。 この大サービスの報酬である瞬の笑顔を我がものにするために 後ろを振り返った氷河は、その時初めて、瞬が石になってしまっていることに気付いたのだった。 |